<意思決定の原則6>自分の「評価基準」を問い直す

 脱線回避の助けになるガイドラインのリストに加えるべき第6の原則はこれだ。

〈原則6〉ランキング――自分の「評価基準」を問い直す

 この原則は、自分の決定の背後にある動機について注意深く考える必要があることを意味する。あなたはどんな頻度で運動をするか、あるいはどれだけの労力を仕事にかけるかといった、明確な計画を立てたかもしれないが、いざ実行というときに、社会的比較のせいで、脱線を招く意思決定をしていることに気づくかもしれない。

 では、どうすればこの原則を私生活や仕事で効果的に使えるだろうか?

 ニューヨークのレンセラー工科大学でゲームデザインを教えているリー・シェルドン准教授が1例を示している。彼は、自分の教えている学生たちからもっとやる気を引き出すため、評価の新たな手順を導入したのだが、その際に、今回出てきた教訓を応用した。

 旧来の評価の代わりに、彼のクラスの学生は学期中ずっと「経験ポイント」をためる。授業と評価手順には、オンラインゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」をモデルにした特徴がたくさんあり、「クエスト」「モンスター」「ギルド」といったものまでそろっているのだ。学期を通して、学生は自分と友人の順位を比べたり、もっと多くの経験ポイントをためる計画を考え出したりすることができる。課題や試験の出来がよいとかならず、旧来のような評価を受けるのではなくポイントを稼げる。

 シェルドンがこのシステムを導入すると、学生は以前より勉強に一生懸命取り組み、授業中も熱心になった。そのうえ、新しいシステムのおかげで、学生たちのあいだに協力的な行動が起こり、不正行為が減った。

 学生の学習意欲を引き出すのは、あなたのやってほしいことを配偶者や従業員がやる気になるように仕向けるのとはまったく違うように聞こえるかもしれないが、社会的比較の基本原則はさまざまな場面で適用できる。

 現にロス・コクランは流通会社のエクスプレスデータのCEOだったとき、シェルドンが教室で使ったテクニックを多く採用した。コクランは従業員に、仕事ぶりがどう報われ、他者の成績や目標に比べて本人の成績がどんな位置にあるかをはっきり伝えるという、同じ原則を使った。シェルドンもコクランも自分のシステムについて注意深く考え、社会的比較によって、この章で論じた害を招きかねない行動(仲間に対する妨害行為、手抜き、不正行為)を引き起こすことなく、学生や従業員が前より熱心で生産的になるように確実に仕向けた。成果が公正に報いられ、高い業績をあげるための指標がはっきりしている風通しのよい文化を打ち立てることによって、シェルドンとコクランは参加者がルールを守ってプレイできるようにしたのだ。

(続く)

※本連載は、『失敗は「そこ」からはじまる』の一部を抜粋し、編集して構成しています。