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医療・介護 大転換

なぜ介護報酬引き下げ?新オレンジプランは新味なし

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第22回】 2015年1月21日
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 来年度の予算編成の一環として介護報酬が改定された。介護報酬は3年ごとに見直され、この4月が第6期目にあたる。1月11日の麻生財務相と塩崎厚労相の会談で正式に決着したもので、前期より2.27%のマイナスとなった。9年ぶりのマイナス改定で事業者団体は一斉に反発している。

 ほぼ同時期の1月7日には、厚労省がやはり4月から始める認知症の新しい長期総合計画を策定し自民党に示した。認知症ケアは、介護保険にも含まれる。介護保険は当時の歴史的経緯から身体介護に軸足を置いた制度として2000年にスタートしたが、その後、認知症介護の重要性が高まってきたため、認知症に特化した新戦略を構築しなければならなくなった。そこで今回は、介護保険の総費用と認知症介護の長期プランという2つの決定事項について考えてみる。

介護報酬2.3%減に事業者・厚労省大反発
財務省の先制パンチが効いた?

 まず、介護保険のマイナス改定である。以前から財政均衡に拘る財務省は、社会保障費の突出を抑えようと策を凝らしてきた。財政制度審議会を通じて介護報酬の改定に早くから積極的に介入し、そこへ消費税の10%アップの先延ばしで、予定財源が減少したこともあり相当に強腰だった。

 財務省が一貫して主張してきたのは、「介護事業者の『収支差率』は8%ほどあり、2%ほどの中小企業を上回る」「その結果として特別養護老人ホームは、過剰な内部留保を抱えている」という点だ。いわば「儲け過ぎ」と言わんばかり。「内部留保を吐き出せばいいのだから、報酬はこれまでより下げるのが当然」という考え方だ。

 当初は一般企業との差を考慮して6%減(8%-2%)を唱えていたが、4%減に下げて厚労省と折衝を続けた。対する厚労省は「介護現場の人手不足は深刻な状況に陥っている。一般産業より平均賃金が10万円も安いからだ。総費用を減額されて人件費が頭打ちになればますます人が集まらなくなる」と訴えた。

 そこへ官邸から「過去最大の下げ幅の2.3%を上回らないように」との声が届き、最終的には小数点2ケタという異例の細かい数値で折り合うことになった。安倍首相が「社会保障に冷たい政権」とのイメージが広がることを恐れて指示を出した、と言われる。

 早い段階からのマイナス改定のムード作りが功を奏した。財務省の「社会福祉法人の儲け過ぎ」という強烈な先制パンチが効いたことは確かだ。当事者の全国老人福祉施設協議会は「計算方法がおかしい」と財務省の数字を躍起になって否定し、「費用の抑制はサービスの劣化をもたらしかねない」とも主張。報酬減に反対する署名集めに奔走した。

 財務省は一方で社福法人の体質の見直し、改革論議を財政制度審議会で重ねてきた。不透明な会計報告、家族経営、親族企業からの設備購入、自治体や議会との癒着――。税の投入を受けながらの不明朗な運営に一部のマスメディアも追及し出した。こうした勢いに押されて厚労省も重い腰を上げる。審議会で検討し始め、地域貢献の義務付けや役員報酬の透明化などの法改正案をまとめた。

 社福法人の不透明な体質が「儲け過ぎ」をもたらした、という確信が財務省側にはあったようだ。収支差率という具体的な数字は説得力を持つ。社福法人を槍玉にあげることで、巧みにマイナス改定の土俵を作ったともいえるだろう。

 そのとばっちりを受けたのは、熱意をもって地道にケアに取り組む各地の小さなNPO法人や中小の企業のようだ。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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