田村 お話を聞いていると、MITに行きたくなりますよね。アントレプレナーシップから程遠い人までアントレプレナーにしてしまう文化があるなんて! すでに起業の経験があって、さらにMITで学んでもう一段の高みをめざしていらっしゃるのが劉さんですが、これまでのご経験やMITで学んだことが今のビジネスづくりにどう活かされているか、もう少し教えて頂けないでしょうか。

 このビジネスを思いついた当初は、それこそウェアラブルにマイクを入れて世の中の会話を全部記録して文字に起こすような仕組みを考えていました。私自身が機械好きだったので、エンジニアと話してこの分野はいけそうだ、と。でも、実のところそんな機械を付けたがる人はいないということが分かって、結構難航しました。

 そこでビルの授業に参加して、顧客視点が大切だと気づいたんです。前職の代理店の伝手でいろいろ聞き取り調査をしているうちに、成長可能性がテレビ分野にあることがわかり、かなり回り道をしたんですけどサービスの仕組みとそのためのプロダクトにたどり着きました。

 もちろんビルの授業も役に立ったんですが、彼が運営しているMITマーティン・トラスト・アントレプレナーシップ・センターには非常にオープンなスペースがあって、これが非常にいいんです。誰でも出入りできて起業に関心のある人たちの溜まり場になっていて(笑)、様々な国の起業家の卵がイベントを開催するなど、ここでの交流が非常に参考になります。悩みも気軽に相談できますし。「アントレプレナー・イン・レジデンス」という制度で、起業経験者がバイアスのかかってないアドバイスをくれることも非常に有難いです。そういったエコシステムのなかで、他よりも早く成長できるかなと思っています。

アイデアを過信するな。プロセスに目を配れ

田村 ビルさんからご覧になって、劉さんはMITの環境をフル活用しているように見えますか。

ビル もちろん、すごくね。

 成功する会社をどうつくるのか、という点で最も間違いやすいのは、アイデアを過信しすぎることです。プロセスが最も大事なのに対して、アイデアは変化していきます。この点は本でも詳しく書きました。アイデアを見つけなければいけませんが、見つかった後こそ良いプロセスを経ないといけません。

 でも、プロセスよりいっそう大事なのが人、チーム、カルチャーです。「Culture eats storategy for breakfast」という記事をテック・クランチにも書いたので、ぜひ参考にして下さい。

 劉さんは非常に情熱をもってコミットしている点が素晴らしいのに加えて、その分野で一番適した人材をチームに引き込むのが非常にうまい。私の部屋に大きな字で「People first, Project second」と書いて貼っていますが、これを実践するのは非常に難しいんです。結婚したい人を見つけるのと同じぐらい難しい。でも起業家になろうと思ったら、少なくとも1人、ときには3人ぐらい、将来結婚したいと思える程度信頼できる人をみつけなければいけません。しかも、“結婚”するだけでなく、すぐ子どもも作らなければ。仲間が愛する子どもをね。劉さんの場合は、チームと文化をつくり、人を巻き込んで成功してきました。チームをつくってリソースを最大限に活用することーーそれこそが成功のカギです。とても自慢の生徒です。