「永続する経営の3要素」を
理解するための6つのポイント

 6つのポイントをお示しします。

 (1)経営は有機的、構造的にとらえなければなりません。有機的、構造的の意味は、操作の可能性ということです。自動車の例えで言えば、ハンドルを右に回せば車輪がどう動くか、アクセルを踏めばエンジンと車輪がどう反応するか、ギアをシフトすれば車輪の回転数や回転方向がどうなるか等です。どこをどう触れば、どこがどう動くか。これを示してくれる経営理解でなければいけません。平板な経営理解では、こうした要請に応えることはできないのです。

 (2)一般的には、理念→戦略→管理と説明されます。常識的な整理です。でも、企業の生成発展からすれば、これは実態ではありません。戦略が先なのです。まずは、売れるものを創造することがビジネスのスタートですから(ついでに言えば、その売れるものをオンリーワンの地位に押し上げることが戦略の目標です)。

 たとえば、『収益結晶化理論』の調査結果では、会社設立11年~20年の間に理念が出来たとする会社が一番、業績が良いとの結果が出ています。それには、三つの理由があります。第一に経営理念にも質というものがあり、「重い」経営理念の形成には時間がかかること、第二に経営者の人間的成長と理念の形成は関連があること、第三に(少々微妙な言い方をしますが)理念の完成と戦略の確立は表裏の関係にあり――私はこれを「理念と戦略の同時併行」と呼んでいますが――、事実上の戦略的な地位の形成(ポジショニング)には時間がかかるからです。

 (3)管理のエッセンスは部門別業績管理です。これが人・組織と数字・業績を結び付けてくれます。これが情報となって戦略を誘導し、経営の操作性を担保してくれるのです。このような現実の要請が、例えば事業部制を生み出しました。

 言い換えれば、生産や販売、購買や人事といった機能別の管理が管理の中心のように言われますが、これは部門の管理ではあっても経営トップのための管理手法ではありません。経営トップは一目で、どこが計画比で予想外の動きになっているかがわからねばなりません。それを可能にしてくれるのが部門別業績管理です。

 (4)「永続する経営の3要素」の業績への「効き目」はどうなっているのでしょうか。興味深いテーマです。本書では5156社のアンケートと財務データを結び付けて、答えを出しています。順番は戦略がトップで管理、人的要因の順になっています。ところが、このデータを詳細分析すると、「人的要因の先行性」とでも言うべき現象が読み取れるのです。私はこの結果を受けて、第一に事業の苗床としての人的要因、第二にこれが技術的要因に具体化して業績に結実すると整理しました。

 (5)「永続する経営の3要素」を経営の「成功と失敗」というダイナミズムから見ればどうなるでしょうか。ある程度は掲載した図表から読み取れます。まず、経営は戦略要因によって成功のステージに上がります。例えば株式公開。この後、管理要因の整備、さらに人的要因の充実というステップを踏んで、いわば「成功の品質」を高めて行きます。

 逆に失敗する場合は、戦略要因に基づく成功の後、管理要因の失敗――大体、財務管理の失敗が多い――、理念要因の失敗――コンプライアンス違反等――で経営破綻するか、経営者としての地位から退いていきます。

 さらに3要因が一巡しても、時間が経過し、新たな環境変化に対応できない場合、例えば現在の家電業界がその典型ですが、彼らはいわば第二次戦略要因に対応できず、失敗ないしは苦境にあります。

 (6)この経営の成功と失敗を、人間の心理から深掘りしたのが「人間学」です。自己実現と自己超越というマズローの「欲求階層説」を援用しています。

 経営者が、あるいは一般に成功者が自己実現レベルの成功でとどまっていたら、成功の弛みと欲望の暴走から必ず失敗します。TVや新聞の連日の報道がそれです。なぜそうなるのか? それを徹底して探求し、人間の内面の底まで降りていき、経営レベルに戻して整理しました。今回の本『1枚のシートで経営を動かす』で一番、力が入ったところです。経営という分野を離れても、知るべき知恵だと思います。ご一読ください。