株式レポート
1月26日 18時0分
マネックス証券

ラスト・ストロー 原油価格下落の背景と底打ち水準 - 広木隆「ストラテジーレポート」

I do not pray for a lighter load, but for a stronger back.
私は荷が軽くなる事よりも、背中が強くなる事を祈る。
フィリップス・ブルックス

シェールオイルの増産は直接的な要因ではない

落ち着きどころが見えない原油価格の下落が世界の金融市場を揺るがしてきた。ECBの量的緩和決定、ギリシャ総選挙と欧州絡みのイベントも通過し、マーケットの視線は再び原油価格の動向に注がれることになるだろう。

この原油価格下落の背景はなんだろうか。世界銀行の分析(Understanding the Plunge in Oil Prices: Source and Implications)によると、長期トレンドに影響する需給バランス面では、米国シェールオイルの生産増という供給要因と、グローバル経済の成長鈍化という需要要因が挙げられている。短期的な要因としては、OPEC(主にサウジアラビア)の目標の変更、地政学リスクの後退による供給遮断懸念の緩和、米ドル高が指摘されている。どれも一見すると極めて正論のように思われるし、一般的なメディアで見られる解説も世銀の分析と大きくは違わない。しかし、それらは原油安の「舞台装置」を提供するものであっても、ここまで短期間のうちに、これほど大きな価格急落をドライブしてきた「直接的な理由」にはなり得ない。

例えば、シェール革命による米国の原油生産量の増加という、もっとも納得的な理由にしても今に始まった話ではない。グラフ1からわかる通り、米国の原油生産量はここ3年余り鋭角的に右肩上がりで増えきた。その間、原油価格(WTI)はほぼ90〜100ドルのレンジで横ばいだった。米国のシェールオイル増産で需給バランスが崩れたことが原油価格下落の要因であるならば、もっと前から原油価格は下げていなければおかしい。例えば、昨年の6月25日にWTIは1バレル100ドルを超え年間の高値をつけた。年初の価格は90ドルを割っていた。この間、米国の原油生産量は約815万バレル/日量から844万バレルへと増加の一途をたどっていた。供給増を完全に無視した価格の上昇だったわけである。



同様に需要面でもグローバル経済の成長鈍化、特にこれまで原油をガブ飲みしてきた新興国の成長鈍化という要因も、今に始まった話ではない。

無論、こうした需給バランスの歪みは原油安を招く根本的な下地ではあった。但し、昨年の6月末を境として突然に、ここまで急激な下落トレンドに突入したことの説明にはならない。この急落は、需給要因というよりは価格要因、すなわち割高な状態で推移していた原油の価格調整が一気に起きたというものであり、価格の動きに着目して売りが売りを呼ぶ状態というのは実需主導というよりも明らかに投機的な動きであると考えられる。

先物カーブにみる割高感

商品先物の価格は、現物価格に金利と保管コストを加えたものである。従って、先物のフォワードカーブは期先へ行けば行くほど高くなる(右肩上がり、順ザヤ)のが普通の状態である。ところが何らかの要因で現物に対する需要が強まると - 例えばハリケーンが米国のメキシコ湾岸を襲って原油設備が打撃を受けるケースなど - 現物価格が跳ね上がる。一方、その需給ひっ迫の要因が一過性の場合は将来の需給に影響を与えないので期先の価格はあまり変動しない。その結果、フォワードカーブは手前が高くなる(右肩下がり、逆ザヤ)。

グラフ2にはWTI先物の直先スプレッド(直物=スポット価格と1期先の先物との価格差)と米国の原油在庫の推移を示した。2013年の推移に明確に見られる通り、スプレッドが低下(スポット物が買われて上昇)する局面では在庫が減り、スプレッドが拡大(スポット物が高くならずフォワードカーブが順ザヤ化)する局面では在庫が増加している。直先スプレッドが実際の在庫増減とリンクしている。



直物価格上昇 = スプレッド低下(あるいはマイナス) = 逆ザヤ = 需給引き締まり
直物価格低下 = スプレッド拡大 = 順ザヤ = 需給緩和

理論上はこのような関係が成り立つ。先物カーブの形状(順ザヤか逆ザヤか)は需給を素直に反映して変化するということが理解できるだろう。

ところが2014年前半は在庫が積み上がる過程においても直先スプレッドは拡大しなかった。これはスポット価格が割高に買われ過ぎていたことを示すものである。
割高な価格が是正され始めたきっかけ

冒頭に見た通り、需給面ではとっくに値段が下がって然るべきであった原油価格が、割高なまま維持されてきた理由は特定しにくいが、昨年前半の地政学リスクの高まりにその一部を求めることは妥当ではあるまいか。ウクライナ情勢の緊迫化、中東でのイラン、シリア、イラクを巡る不穏な動き。それらの不透明感が原油スポット価格の高止まりを招いてきた。現在も地政学リスクは薄らいでいないが、世銀レポートの分析にもある通り、昨年の中ごろにはウクライナ情勢を巡る緊張が緩和したのは事実である。

原油価格の下落が始まったのは昨年の後半からだが、CFTC(米国商品先物取引委員会)が発表している非商業部門の原油先物の建玉を見ると、ちょうど原油価格の下落が始まった時期から、ロング(買い建て)ポジションが減り始め、ショート(空売り)ポジションが増え始めているのが分かる(グラフ3)。この時期から投機筋の「原油売り」が始まったということである。



そして、この時期は、ドルの上昇トレンドが始まった起点でもあるということだ。グラフ4に示した通り、ドル高トレンドが鮮明になるにつれて原油の下落トレンドが加速している。ほぼ逆相関を描いているのが分かる。



CTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー;商品先物投資顧問業者)を含むマクロ系ヘッジファンドは、トレンドが出ている先物であればトレンド・フォロー(順張り)でポジションを持つ。それは国際商品市況であろうが為替であろうが株式先物だろうが、なんだってよい。トレンド・フォロー(順張り)が基本だから、上昇トレンドならロングを、下落トレンドならショートを張るが、トレンドが鮮明になればなるほどポジションを積み増していく。自ら買い上げ、自ら売り崩していくのである。

特に、米ドルと原油のような国際商品市況はペア・トレードをしかけやすい。ドル高は国際商品市況にとってネガティブ要因との刷り込みが一般に浸透しているからだ。ドル高になると(原油自体の価値は変わらなくても)、非ドル圏の需要家から見たドル建て原油価格が高くなるので需要が減退し価格の下落要因となるというのが「セオリー(定石)」として商品相場の世界ではまかり通っているからだ。この点について僕自身は、ずいぶんおかしな理屈だと思うのだが、それはまた別の機会で述べよう。とにかく投機筋にとっては、米ドル買い・原油売りのポジションを組むには絶好の条件がそろっていたということだ。原油の割高感継続。ドルの先高観の高まり。そして米ドル買い・原油売りの相性の良さ。これまで過去3年、CTAのパフォーマンスはぼろぼろだったが、昨年後半からの米ドル買い・原油売りはまさに起死回生の一手となった。これで息を吹き返したファンドも多いだろう。グラフ5にCTAのパフォーマンスを示した。


割高感の調整は相当程度進展した

原油価格はどのあたりで下げ止まるだろうか。そろそろ底打ちを探る水準に近づいてきたというのが僕の見立てである。フォワードカーブの観点からはグラフ6に示した通り、ずっと逆ザヤで推移してきたが、その逆ザヤも解消され、現在は1年先の先物がスポット価格に対して2割程度高くなっている。この程度の価格差があればスポットを買って先物を売るという裁定取引が機能する水準であり、一本調子の下落に歯止めがかかるだろう。



先週土曜日(1/24)付けの日経新聞マーケット商品面に、「原油指標価格逆転も視野 WTI、ブレントに接近」という記事が掲載された。その記事の中で、「貯蔵スペースの差に注目した取引も活発だ。原油を含む先物取引では、決済期限が近い「期近物」が決済まで遠い「期先物」に比べて安い順ざや(コンタンゴ)となると、備蓄を活用した取引が増えやすい。トレーダーなどは在庫を抱えれば、利益を確保しやすい」という記載があったが、これはまさに前述したカレンダースプレッドを利用した、現物買い・先物売りの裁定取引で利益が出る水準になったということである。

もうひとつは、シェールオイル掘削用ドリルの数が減り始めたことである。リグカウントとは掘削機(ドリル)による掘削数。原油価格の急落で、採算割れを起こしたシェールオイル油田が増えてきていることを示す指標となる。米オイルのリグカウントはシェールオイルの生産が増え始めた2009年ごろから急増し、2012年〜2013年は1400前後で安定推移していたが、2014年に入ると再び増加に転じ10月には1600を超えピークを付けた(グラフ7)。これがおそらく「ラスト・ストロー」となったと思われる。



The last straw breaks the camel's back. (最後の一本の藁がラクダの背中を折る)

という諺がある。こどもの頃に遊んだ砂山崩しも同じである。臨界点を超えるまでは、それまでの状況となんら変わらない。ラクダも荷を背負って立っているし、砂山の棒も倒れない。しかし、臨界点を超えると、たった一本の藁でも、ごく小さな砂のひと掻きでも、それまでの均衡を破る一撃となる。

昨年になって再び増加の勢いを増した米国のリグカウントが、それまでの危うい均衡を崩す、最後の一本の藁となったと思う。

そのリグカウントは直近では1400台を割り込む水準にまで低下してきた。原油価格が横ばいで安定していた時期の水準に戻ったわけで、目先、調整一巡感が台頭してもおかしくないと考える。

もちろん、リグが減ったからといってすぐに米国のシェールオイル産出にストップがかかるわけではない。新規の採掘は止まっても、既存の油井は掘り続けるだろう。採掘コスト割れでも、既に資金調達していることもあって採掘をやめられないという事情もあるし、一部の事業者は原油先物でヘッジ売りを持っているから、まだ耐えられるところもあるだろう。

しかし、このリグカウントの減少は生産調整が早晩進むことのサインと捉えられるだろう。これまで述べてきたように、実際の需給よりも、価格面主導の投機が原油急落の主因だとすれば、実際に米国の原油生産が落ちてくることを待つ必要はない。リグカウント低下という「シンボリックな材料」は、じゅうぶん投機売りを抑制する要因になるだろう。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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