採用・就職活動を語るとき
避けるべき3つの議論

 これまでのような話はここ数年、いろいろなところで語らせていただいています。嬉しいことに世の中では、新卒の就職活動・採用活動についてのさまざまな議論が始まっています。これは、とてもよいことです。

 しかし、この問題を論じるとき、注意しなければならないことが、3つあります。

(1)人ごと批判
 1つめは「人ごと批判の問題」です。

 就職活動の長期化批判、早期化批判、学生の大手志向批判、親の過剰な関与批判、企業の横並び思想批判、大学の授業内容批判、大学のキャリア教育批判……とにかく「批判」ばかりが不思議なほど渦巻いているのが、この世界です。

 しかし、自らは傷つかず汗もかかない立場から批判を繰り広げているだけでは何も変わりません。

「時期論」だけで何かが解決すると勘違いしている人たちもこの類です。

 就職活動の時期を遅らせておいて早めに動かない学生を嘆いてみたり、早期に動いている一部の学生だけを取り上げて、「早くも申し合わせが形骸化している」と煽ってみたりと、今年もこの風潮は横行しています。

 この問題を乗り越えないと、大学側と企業側の建設的な議論は成り立ちません。「大学の教育が悪い」「企業の採用姿勢が悪い」といっていても何も解決には近づかないのです。

(2)「俺の頃は」議論
 そして、2つめは「俺の頃は議論」の問題。

 多くの大人は新卒での就職活動を過去に経験しています。そして、どうしても無意識に自分たちの時代の就職活動をベースにこの問題を語りがちです。特に親がこれをやります。

 親の頃と今の就職活動ではまったく様相は違います。それどころでなく、1年1年その姿は変化しているのです。

 ですから、卒業してまだ3年の先輩であっても、したり顔で就活成功談を語るのは問題です。今の時代、今年の実態をリアルに理解せずに、自分たちの時代をベースにしてこの問題を語ることには、弊害こそあり、何の意味も持ちません。

(3)居酒屋談義的、安易な議論
 そして最後の3つめは、「私たち社会人は、将来にわたって二度と新卒採用活動をすることはない」という当たり前の事実を十分に認識すべき、ということです。

 新卒採用活動のような、“絶対にリアルな実体験を自分がこれからできないこと”を議論する場合、本来であれば徹底的に調査をしたり、徹底的にイマジネーションを広げて考えたりしなければならないはずです。まさに、「マーケティング」の世界です。

 しかし、なぜか新卒就職・採用のテーマでは、居酒屋談義的な安易な議論が当たり前のように拡がっています。

 これは人材育成の分野などでも言えることなのですが、誰でも容易に一家言が持てる身近さがあるが故に、感覚論、経験論、根拠なき持論が横行し、そこに科学が欠けてしまいます。これでは、空中戦を繰り広げるだけで、発展性がありません。