>>「アナコンダ部長の締め付けに窒息寸前! 34歳コンサルタントの悶絶(上)」より続きます。

 黒木の「ささやき」が透けて見えてくる。今回のインフルエンザに限らず、自分がいないところで「田口の扱いには困っている」などと、つぶやいていたのだろう。悶々としていると黒木が出社してきて、田口に向かって大きな声で叫んだ。

「お~、すっきりした表情になっている。君は馬力があるのだから、仕事の遅れを取り戻していただかないと……」

 得意の「部下への敬語」である。みんなが出社し顔をそろえると、こう切り出す。

「田口君がインフルエンザになったから、心配していた。社長にも報告をしておいたよ。『田口君がいないと部署が動かない』と」

 今度はほめ殺しになる。それが嘘であることはわかる。田口には、黒木が「(巨大ヘビの)アナコンダ」に見えるようだ。アナコンダにつかまり、絞められ、身動きがとれない動物の気持ちがわかるという。

上司である自分は常に正しく
部下であるあなたは常に誤り

 今の田口には、2年前に入社したときの勢いや気負いはない。黒木の「ささやき戦術」により、日を追うごとに衰弱していくという自覚がある。昨日は、こんなやりとりをしたという。職場で田口が、来年度の部署の予算案について意見を口にしたときのことだ。

 黒木が、「いや、そうではなく……」と話を遮り、5分ほど話し始める。意見を否定すると思いきや、結局、田口が述べたのと同じ意味合いのことを繰り返すだけのようだ。田口としては、自分の考えのどのあたりに問題があったのかわからない。黙っていると、黒木が意見を求めてくる。試しに田口は、黒木がさっき話した内容とそっくり同じことを言ってみた。すると、黒木はささやく。「いや、そうではなく……」。

 これでは、何を言ったら黒木の同意を得られるのか、さっぱり検討がつかない。何を言っても、あらゆることを否定される。それでも黒木は、「新規事業の案を出すように」と命じる。