家庭や地域に戻すシステムがないため、診療を終えたのに退院しない人が多いからだ。「社会的入院」と言われる。精神障害者の退院後のベッドに認知症高齢者を誘導する病院もあり、全国の精神科病院には、認知症の人が5万3000人もいる。認知症で入院している7万5000人のうち約7割は精神科病院で日々を過ごしている。このような状態に対して、世界保健機関(WHO)は家族や地域での介護態勢を拡充するよう勧告してきた。

 精神科の治療が必要な人と認知症高齢者は、同居家族を悩ます類似した症状が出て来ることがあるが、基本的には異なる対応が求められる。認知症高齢者の中には、一時的に薬剤投与を必要とされることはあるが、長期的に見れば本来の居場所ではない。これが欧米の定説である。

精神科病院で適切な認知症ケアは行えるのか?

 精神科病院では、法律(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)によって入院患者への行動制限が認められている。ベッド上で手足をベルトやひもで固定したり、車椅子に乗っている時に腰をベルトで抑えてしまう。抑制と呼ばれるが、実態は拘束である。

 一方、2000年に始まった介護保険制度では、虐待につながる拘束を禁止しており、原則として「抑制」は認められない。生命にかかわるなど緊急措置として、十分検討されたうえでなら、という例外規定はある。現場では原則論が行き渡り、様々な工夫をすることで拘束を回避する努力が成されている。

 この基本的な認識、取組みの違いは大きい。画一的な処置に走りがちが病院の中で、個別ケアを必要とされる認知症ケアが十分行われるかは疑問視される。

 悪化した臓器の再生を第一の目的とする病院の目的は「医療モデル」と呼ばれ、生活の質(QOL)を最優先させる介護の世界の「生活モデル」との両立は難しい。高齢者介護の分野では、医療モデルから生活モデルへの転換を目指す動きが近年急速に高まり、医療者の中にも在宅医療を手掛ける医師たちから、自宅や地域での生活の継続性を重視する考え方が広まりつつある。

 だが、日本では医療への「盲目的な信仰」が根強い。介護保険業務に携わる専門職の間にもその傾向がある。要介護度が高まれば、自宅から施設へ、さらに施設から病院へという「思い込み」からなかなか抜け出せない。

 認知症高齢者が引き起こす「暴言」「徘徊」「異食」などに、認知症ケアへの理解のない家族が一日中生活を共にするのは相当の困難を伴う。相談相手のケアマネジャーやかかりつけ医が、認知症ケアへの理解が浅いと、その指示で精神科病院に駆け込んでしまう。

 その病院内での対応法を見ると、「やむを得ずとはいえ……」と深い悩みを抱え込まざるを得ない。「抑制」を当然視する精神科病院と認知症高齢者の関わり方を国家戦略として、どのように位置づけるかは大きな課題。

 欧米諸国では、「生活の場ではない精神科病院での長期入院は、認知症の人への適切な対応ではない」として、退院促進に力を入れてきた。2012年1月に東京で開催された「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」で、スウェーデンや英国、オランダなどの関係者がその成果を得々と語った。フランス代表は「今や精神科病院に入院中の認知症高齢者は1000人以下です」と胸を張った。各国とも、どれだけ減らしてきたかを、数字を挙げて説明した。

 では、新オレンジプランでは精神科病院についてどのように位置づけられたか。1月7日の当初案では、これまでの認知症ケアの経緯を踏まえた、それなりの内容であった。27日の正式プランと読み比べてみる。