「コメが足りない」

 東京都内のあるコメの卸売業者は困惑しきりだ。同社の流通米の在庫は、この1~2ヵ月間、例年の初夏と比べて2割も少ない状態が続いている。主に売れ筋の「新潟産コシヒカリ」や「秋田産あきたこまち」といったブランド米の品薄感が強い。農協に何度問い合わせても、「そんなに融通するコメがない」と断られて終わりだ。

 そんな状況にもかかわらず、スーパーの仕入れ担当者からは「早く届けてくれないと品切れになる」と矢の催促が来る。「得意先の要求に応えたくても応えられない」と関係者は不安を抱える毎日である。

 現在、全国でコメの品薄感が強まっている。コメの消費量は、日本人の食トレンドの変化や少子高齢化により、これまで減少の一途を辿ってきた。一方、コメの作付け面積や収穫量は1970年代にすでに過剰状態に陥った。

 減反政策が長らく続いたにもかかわらず、冷夏で収穫量が激減した1993年などのケースを除けば、その傾向は今日まで基本的に変わらない。特に2007年度の全国収穫量は約870万トンと、前年度と比べて約16万トン増加している。要するに、「コメのダブつき」が常態化しているのだ。

 にもかかわらず、ここに来て何故「コメ不足」なのか。

 その要因の1つは、今や日本人の食卓には欠かせない存在となった小麦価格の高騰である。世界的な食糧不足により、国内消費の9割を占める輸入小麦価格は、昨年後半に2割近く、今年4月に3割も上昇した。それに伴い、小麦を原料としたパンや麺類の小売価格も上昇している。

 そのため、供給過剰によって価格が割安となっているコメの人気が再燃しているというわけだ。 「中国産の毒入りギョウザ騒動がきっかけで、国内産の食品が改めて見直されている」(大手小売店関係者)という影響もある。

  「店頭でのブランド米の売れ行きは年初比10~15%ほど増えている。佃煮や惣菜など、ごはんと一緒に食卓に上るおかずの売り上げも好調。冷凍食品の値上げが続くなか、コメ需要のアップは大きな追い風だ」とホクホク顔で語るのは、家族世帯が多い東京都杉並区のスーパー関係者。

 直近では、麦の替わりに「米粉」を使ったパンやうどんなども市場に出回り始めた。