>>「うつ社員の肩代わりで疲弊する同僚たちの悲鳴」(上)から続きます。

 ここからは、私が感じ取っていることだ。うつで苦しむ男性に文句を言っている同僚たちは、本心では、「自分たちよりも先に彼が副編集長になるのではないか」という懸念を抱いているのではなかろうか。同僚たちは、男性が職場復帰したことに不満を持っているのではないのかもしれない。会社として、自分たちへの配慮が足りないことに怒っているように思える。このあたりは、うつなどを抱え込む社員について論じるとき、盲点となりがちなところだ。

 少なくとも同僚たちは、善意で男性の仕事を請け負ってきたと思っている。たとえば、1人の同僚のこの言葉が象徴的だ。

「残業が大量に増え、人事部や上司から叱責を受けた。時間に押され、自らの仕事にも、問題が次々と生じた」

 広い視野に立って考えてみると、同僚たちにとっては、男性が休業していた時期もそれ以前も、彼の仕事のフォローが相当な負担になっていたことは事実なのだ。現在も、男性が元のペースで仕事が消化できていないようで、そのことにも不満がある。

 本来は、同僚たちのこのような一連の行為に報いるために、会社は何らかの見返りを与えないといけない。それがないまま、「みんなで支え合おう」という美しい言葉を、つまりはタテマエを持ち出したところで、彼らの心は満たされない。「みんなで支え合おう」と口にするほどに、反発心が強くなっていくように、筆者には見える。ここにこそ、「本当の弱者」がいるのではないか。

タテマエとホンネが屈折した
形で絡み合う「黒い職場」

 後日談を語ると、この編集部を取り巻く事態は、さらに深刻化する。去年の秋に人事異動があり、ある珍事が起きた。この会社が数年前に吸収合併した、ある中堅出版社に在籍していた女性編集者が、新たな編集長に就任したのだ。

 女性編集者は、40代前半。中堅の出版社ではさしたる実績はないようだが、年齢から見ると抜擢人事である。だが、マスメディアが好きそうな「実力主義」なるものではない、と私は見ている。