“食”についても考察した長寿大国フランスの学者※享年(数え年で表記)
イラスト/びごーじょうじ

 レヴィ=ストロースは世界で最も名が知られた文化人類学者だ。『悲しき熱帯』などの著作をはじめ、構造主義という思考方法を世界に広めるのにも貢献し、人類の知に多大なる影響を及ぼした。

 構造主義とはざっくりと言うと、人間を成立させているものを内部ではなく外部に求めようとするものだ。つまり、人間の思考や行動は内発的なものではなく、外部(自然や社会)との関係性で決定されているという考え方である。それゆえに彼はそれまで学問のなかで大きく取り上げられてこなかった“性”と“食”─―共に外部から異物を取り入れ、受け入れる行為─―を重要なテーマとして扱った。

 レヴィ=ストロースの大著『神話論理』は「生のものと、火にかけたもの」から始まる。これは調理の火をめぐる神話群を主題にしたもので、料理こそがまさしく人間を人間たらしめた、ということを証明するものだった。

 彼はこんなふうに書いている。

「料理は自然から文化への移行を示すのみならず、料理により、料理を通して、人間の条件がそのすべての属性を含めて定義されており、議論の余地なく最も自然であると思われる──死ぬことのような──属性ですらそこに含められているのである」

 彼は驚くべき長寿であり、しかも100歳で亡くなるまでその思考は衰えることがなかった。彼が“食”について関心を持ったことと、フランスの文化は無関係でないように思う。オランダ人は生きるために食べ、フランス人は食べるために生きるといわれるが、フランスの豊かな食文化が思考に与えた影響は大きいはずだ。