トマ・ピケティは、『21世紀の資本』において、格差の拡大が、簡単なマクロ変数で説明できるとした。前回は、そのようなマクロ経済の姿は日本では観察されないことを、GDPデータを用いて示した。以下では、同じことを法人企業統計のデータを用いて示そう。

従業員給与と営業利益の
比率はほぼ一定

 法人企業統計は、経済全体ではなく、法人企業という経済の一部だけを対象としている。しかし、極めて詳細なデータを長期間について提供する貴重な情報源だ。経済の生産活動のほとんどは法人部門で行なわれるので、この部門を分析することによって、所得が生み出される過程をかなり詳細に知ることができる。

 営業利益の中には、支払利息、配当金、社内留保という資本所得が含まれている(内部留保は、株主のキャピタルゲインという形で所得になる)。そこで、営業利益を資本所得と見なし、従業員給与を労働所得と見なすことにする(注1)

 従業員給与と営業利益の比率を見ると、図表1のとおりである。

 この比率は1998、99年度頃の期間と2009年度頃に上昇したが、それは、景気後退の中で従業員所得がほぼ一定にとどまり、景気変動で大きな影響を受ける営業利益が急減したことによる。

 この影響を除くと、70年代の初め以降、長期的に見て、比率は3~4程度の水準で安定といえる。

日本経済の実態は、ピケティのモデルとは異なる