手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」は、患者の体に負担が少ない手術向けに一部のがんでは普及し始めた。これを心臓手術に用い、効果を上げているのが心臓外科医の渡邊剛医師。ダイヤモンドQ編集部がその驚異の手術現場をレポートする。

手術ドキュメント

 AM11:03──2時間ほど前から進めていた手術の準備が整い、渡邊剛医師はひょうひょうとした様子で、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」のサージョン・コンソール(遠隔操作台)に座った。

“神の手”を最大限に生かす<br />心臓ロボット手術の驚異執刀医の渡邊医師は手術台から離れた場所でダ・ヴィンチを遠隔操作する。一瞬、「執刀医は誰なのか」が分からなくなる(撮影:大澤誠)

 アームの操作レバーを指に装着し、手術を開始する。助手を務める外科医や看護師らが囲む、患者が横たわる手術台までの距離は約3㍍。室内にある数台のモニター画面の中では、ロボットアームがちゅうちょなく心臓を覆う膜を切開し、内側へと入り込んでいく過程が大きく映し出されている。患者の傍らに肝心の渡邊医師はいない。一瞬「執刀医は誰なのか」が分からなくなる、なんともSFじみた手術光景だ。

 患者は67歳の男性。心臓弁膜症の一種、僧房弁閉鎖不全症を患っている。一般的な開胸手術であれば、胸骨を喉元からみぞおちにかけておよそ20cmから30cmにわたって切り開き、左右に押し広げて行う「胸骨正中切開」という大手術になる。しかしダ・ヴィンチなら、1cm程度の穴を数カ所開けるだけ。身体に対する負担は比べようもないほど低く、半分程度の時間で手術を終わらせることができる。体力が著しく低下していた男性は、迷いなくダ・ヴィンチ手術を望んだ。 

“神の手”を最大限に生かす<br />心臓ロボット手術の驚異助手を務める外科医や看護師は、執刀医による遠隔手術を患者の傍らでサポートする(撮影:大澤誠)

 渡邊医師が「手術中の女神です」と語る竹内まりやの歌声がしっとりと流れる中、手術室の脇にあるシャッターが開いた。ガラス越しに手術を見守る患者の家族たち。視線は自然とモニターに注がれる。固唾をのんで見守るとはまさにこのことか。

 AM11:25──手術は順調に進み、すでに疾患のある弁は切除され、心臓弁を形成する作業に入った。「驚いたね。カチカチだよ」と渡邊医師がつぶやく。弁が石灰化し、石のように硬くなっていたのだが、手術に問題はない。弁輪を縮小する細いリング状のひもを縫い付ければ完成だ。狭い心臓の中で助手が、アームの先でつまんだ針と糸をロボットアームに渡す。渡邊医師は一方のアームで針を刺すと、すぐにもう一方のアームに針を持ち替え、巧みに作った糸の輪に針を通して結んでいく。あとは心房を縫い合わせるだけ。

 PM0:10──予定通り、約70分で手術を終えた渡邊医師は立ち上がり、軽やかな足取りで手術室を後にした。