「All for one, one for all」
危機を救ってくれたのは
社員のみんなの力だった。

杉本 いずれにしても、会長とテイクアンドギヴ・ニーズはあの時の試練を乗り越えられました。いろんな方の支援もあったんでしょうが。

野尻 僕にとって、一番の支援は社員の力だった。ピンチの要因にもなった事業構造の変革で、トップダウンではなくボトムアップで顧客満足度の高い会社を目指すという理念に、社員のみんなが共感してくれたんだよね。
 当時、40〜50人くらいの幹部社員が「乗り切りましょう!」と意欲的に取り組んでくれたことが、金融機関にも評価していただけた。

杉本 頼もしいですね。

野尻 僕はラグビーをやっていたけど、ラグビーの合い言葉のようになっている「All for one, one for all」という言葉は全く使わないタイプだった。でも、このときはまさに「All for one, one for all」を実感できたんだよね。ラグビーって、ボールを後ろに投げながら前に進むスポーツでしょ。
 僕自身、ネガティブな案件が目の前に迫ってきたり、人間関係にネガティブな空気を感じたら、すぐに「蓋」をしに行くんです。中学生の頃からずっとラグビーをやってきて、身体に染みついているのかも知れない。

杉本 たしかに、会長のそういう「間合い」は抜群です。

野尻 きっと、僕のそういう一面を、みんなが信頼してくれたということなんだとも思う。社員や役員の力で乗り切ることができた。うちの会社の商材ってね、結局、人なんだよ。

杉本 すばらしい。

野尻 この本の中に「踊り続けるしかないパーティ」のエピソードがあったでしょ。当時の僕も、株価を上げたい、時価総額を上げたいという自己顕示欲のような気持ちがあったと思う。
 もちろん、株価を高くするのは経営者として絶対的にマストなことなんだけど、本質的に会社の事業がなんのためにあるのかということが大事なんだよね。変革と、危機を乗り越えて、ようやくそのことに確信がもてるようになってきた。

杉本 リーマンショック以前は、誰もが確信犯的に「踊りに行ってた」部分もあったように思います。事業の本質的な価値を考える視点を見失いがちだったかもしれないですね。

起業家対談シリーズ第6回 野尻佳孝<br />ボトムアップの改革で危機を乗り越えた