トヨタ自動車がロシア市場攻略へアクセルを吹かし始めた。2007年12月、サンクトペテルブルク工場の稼働式典で第二工場計画を正式に表明。駆けつけたプーチン大統領を喜ばせた。折しも、同国の自動車市場は年率2ケタのペースで成長中。しかも、廉価な小型車ばかりが売れる新興国市場にあって中・高級車の売れ行きが好調だ。慎重居士も珍しく先手必勝の戦略を描き始めた。

 「プーチンは終始、上機嫌だった」(現地の外交関係者)

 2007年12月21日、プーチン大統領はトヨタ自動車がロシア・サンクトペテルブルク郊外に建設していた工場の稼働を祝う式典に駆けつけた。渡辺捷昭社長や奥田碩取締役相談役らの案内で新工場を見学し、生産ラインから滑り出た第1号の「カムリ」を満足げな表情で眺めていたという。

 普段はこわもての大統領の頬が緩むのも無理はない。サンクトペテルブルクは出身地であり、政治活動の重要な基盤。そこに、米ゼネラルモーターズ(GM)から世界一の称号を奪取しようというトヨタが工場を構えたのだ。

 じつはプーチン大統領がトヨタ主催の式典へ参加するのは、2005年の竣工式に次いで2度目。ロシアの国家元首が一外資企業の式典に2度も出るのは「異例中の異例」(外交筋)という。それだけ、期待と喜びの大きさがわかる。

 渡辺社長が表明した言葉も十分な“土産”となったに違いない。

 「将来は敷地内に第2工場を建設し、生産は(年)20万~30万台規模に拡大したい」

 20万台――。自動車業界では、意味のある数字だ。それは、大手自動車メーカーが海外で現地生産する際に、採算ベースに乗るとされる水準である。部品メーカーにとっても完成車メーカーに伴って現地に進出するか否かを判断する目安となる数字だ。

 「トヨタは、ロシアに入れ込んでいる」と、ある部品メーカー首脳は見る。20万台の“確約”で、デンソーやアイシン精機など傘下の部品メーカーが今後現地生産で続くのは火を見るより明らかだ。