前回、中国出張を終えて日本に戻る前日に、母から珍しく買い物を頼まれた。「保温できる湯呑用の魔法瓶みたいなものがほしいが……」と。そして、なんとかというマークがついているものだと教えてくれた。日本語も英語もわからない母はこういう形でブランドを指定した。びっくりしながら、母からのこのめったにない依頼をむしろ喜んで引き受けた。

 のちに、旧正月の家族団らんに顔を出すために上海に帰る妻は6個の保温マグをお土産品としてスーツケースに入れた。そのスーツケースにその他の日常品も入っている。その多くは親戚へのお土産だ。お土産品とはいえ、事前に中国国内の好みを確かめたうえで購入したものだ。その好みの一つはブランドだ。

 友人から馬油のハンドクリームの購入を頼まれたことがある。お安い御用だと思ったら、それもブランド指定だったため、入手するのに一苦労した。

中国人消費者の
ブランド志向が強まった

日本製品は、もっと中国人に響くブランド戦略を

 考えてみると、わが家で使われている保温マグは購入する際、ブランドをチェックしなかった。デザイン、色、価格がチェックポイントだった。どの会社が作ったのかはそれほど問題にしていなかった。上海の家で使っている保温マグも海南島に進出した会社の忘年会に参加したときもらったものだ。どのメーカーかは覚えていない。確認していなかったからだ。

 だから、中国のある変化に気付かせられた。消費者がブランドを重視する傾向を強めたのだ。こうした例は枚挙に暇がないほどある。花王のオムツがたいへんな人気だ。都内の中華レストランの壁にまでそれを求める張り紙が貼られているほどだ。しかし、他社の同類製品を勧めると、反応が一気に鈍くなる。中国人消費者はこの頃、日常生活品のブランドにこだわりすぎるほど敏感になってきた、と言えよう。