経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第65回】 2015年4月7日
著者・コラム紹介 バックナンバー
武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【木戸敏郎氏×武田隆氏対談3】
形骸を捨て、本質を見つめよ―伝統が時代を越えて生き続ける理由

元国立劇場演出室長・京都造形大学教授の木戸敏郎氏との対談第3回。今回のテーマは、「場」。ソーシャルコミュニティで、企業とユーザーが近づくヒントは、伝統芸能の「場」の考え方にあった。

木戸敏郎(きど・としろう) 1930年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業。元国立劇場演出室長、音楽プロデューサー。伝統を創造につなげるために雅楽や聲明(しょうみょう)の古典作品をいったん脱構築して形骸を捨象・伝統を抽象し、その伝統を現状の中で再構造化して創造につなげる音楽運動を内外の作曲家と連携しながら展開。また音の未知の情報量を開拓するために、正倉院の楽器や遺跡出土の古代楽器を考証し、芸術品として ではなく楽器として復元、これらによる音楽運動を展開する。さらには、正倉院の箜篌(くご)がルーヴル美術館の古代エジプトアングルハープと同属であることに注目し、ルーヴルやカイロ博物館の始原楽器の数々を復元。以上の成果を海外の学会や音楽祭などでも発表して好評を博している。著書に「古代楽器の復元」「若き古代」など、第6回中島健蔵音楽賞、98年クラウス・ワックスマン賞(アメリカエスノムジコロジーソサイエティ)受賞。

消費者コミュニティは張り出し舞台

武田 前回は、円通寺の借景庭園から「引用」の技法を学びました。

 あらゆるものは隣り合うものとの関係性で、その意味や価値が変わるというお話も伺いました。伝統芸能とインターネットの接点について議論を重ねてきたこの対談ですが、今回は「場」をテーマにお話を進めたいと思います。

木戸 今回も楽しみです。「場」ということであれば、伝統芸能には「舞台」というものがあります。

武田 「舞台」にはどのような種類があるのでしょうか?

木戸 西洋のルネサンス以降の劇場では、プロセニアムアーチのある劇場が主流です。

武田 舞台と客席の間に枠がついている劇場ですね。

木戸 プロセニアムアーチは舞台を一枚の絵のように見立てます。

武田 客席と舞台は別世界になっているのですね。

木戸 そうです。観客は、その絵の中で起こることを客席から観賞します。絵の中で起こっていることですから、何が起ころうが観客側には影響はありません。殺人が起ころうが爆発が起ころうが、それは絵の中のことで、こっちは安全なのです。これがプロセニアムアーチの本質です。

パリのオペラ座のプロセニアム・アーチ(CC)
拡大画像表示

武田 あの枠は、絵画の額縁なのですね。

木戸 そうです。そして、明治以降、日本にもその影響が入ってきました。歌舞伎でもなんでも全部プロセニアムアーチの影響を受けて、客席と舞台の関係がはっきりと分かれるようになりました。それによって、観客と演劇の絆が薄くなってしまったのです。

武田 それ以前は違ったということですか?

木戸 そうです。歌舞伎にしても能にしても、こちら側の出来事と向こう側の出来事は階や花道を通して繋がっていたんです。

武田 私がインターネットで、Webサイトを作成していて悩んでいたのは、ブラウザの中にいくらWebサイトを作っても、企業と顧客が繋がらないということでした。

木戸 同じように企業から顧客へと一方的になってしまうのでしょう?

武田 そうです。インターネットは双方向に参加できることがテレビや雑誌のようなマスメディアと違うところだったはずなのに、1998年以降、広告ビジネスがWebサイト制作の領域に参入し始めた辺りから、Webサイトはブラウザの額縁の中でデザインされる広告のようなものになっていきました。その状態は、ちょうどプロセニアムアーチが隔てる外と中のようなものでした。

木戸 「張り出し舞台」を作ればいいのではないでしょうか?

武田 張り出し舞台…ですか?

木戸 伝統芸能の舞台のひとつの形態です。張り出し舞台は客席に囲まれた舞台で、観客との関係が非常に近く、双方向で親密度が高くなるように設計されているんです。消費者コミュニティというのは、張り出し舞台なのでしょう?

武田 たしかに、企業がユーザーの集まるところに飛び出していく場所になっています。

木戸 それはいい「場」ですね。プロセニアムアーチでは、主客が分かれますが、張り出し舞台では、お互いが交わります。江戸時代の歌舞伎のための舞台には「名乗り台」という張り出し舞台があり、芝居の途中で役者が役から離れて役者に戻って観客に挨拶をしたりしています。きっと消費者コミュニティも同じなのですね。

武田 はい。まさに主客が入り交じり、価値の共創が起こっています。消費者コミュニティは、張り出し舞台なのかもしれません。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


ソーシャルメディア進化論2016

「ソーシャルメディア進化論2016」

⇒バックナンバー一覧