独居老人を次々と訪問
3位の「東伊興クリニック」

 3位となったのが、「東伊興クリニック」(髙本雄幸理事長・院長)。

小林看護部長(奥)がお嫁さんにたんの吸引方法などを説明する

 訪問診療は午前の外来診療の後、午後2時半ごろに出発する。髙本理事長・院長や在宅医療室長の鈴木公雄副院長ら5~6人の医師が、それぞれ10人ほど訪問する。この日の鈴木副院長と小林亮看護部長の訪問先は、独居老人宅やグループホームなど8軒(10人)だ。

 最初の訪問先はアパートで一人暮らしの男性(77歳)。大学病院で胃がん手術を受けた。

 小林看護部長は、玄関脇ボックスのダイヤルを回し、鍵を取り出した。鍵の管理は患者・家族と契約している。ドアを開け「こんにちは。東伊興クリニックです」と告げ、鈴木副院長と上がり込む。

 小林看護部長が血圧などを測定後、点滴を準備する。鈴木副院長は問診しながら、男性の言葉を丁寧に拾ってカルテに書き込む。

 次の訪問先も独居老人宅だ。リウマチと糖尿病を患う女性(73歳)で、測定値なども覚えているため自己診断してしまうのが癖だ。ベッドで横になりながら「足のむくみが取れてきた」と喜ぶ一方、人工透析への懸念が頭から離れない。小林看護部長は「あの数値なら死ぬまで大丈夫だよ」と笑ってなだめる。

 東伊興クリニックでは、こうした独居老人が在宅患者の4割を占める。その大半は生活保護受給者で、2週間ぶりに訪問したら亡くなっていたケースもあったという。独居老人が亡くなると、警察の事情聴取などが負担になるが「気付いてあげられなかったことへの悔しさの方が大きい」(小林看護部長)。

 3軒目は腎臓がんが肺に転移している要介護4の寝たきり男性(88歳)。看病していた奥さんも大病を患っている。鈴木副院長がお嫁さんに容態を確認。小林看護部長はかもいのフックに点滴剤をつるしながら、ベッド脇のたん吸引機の使用法などを説明する。お嫁さんは義母から引き継いだノートに細大漏らさぬよう書き留める。「緊急時には駆け付けてくれるので、入院は考えていません」という。

 5軒目は自傷行為や自殺未遂を起こした一人暮らしの女性(55歳)だ。精神科クリニックの訪問看護師に年末年始の入院を勧められたが、虐待が心配という。鈴木副院長は「今どきそんなことないよ。遊びに行くつもりで行ってくれば」と諭す。納得しない女性に小林看護部長が話を手紙にまとめ、精神科クリニックの訪問看護師に渡すよう促した。

 7軒目は高齢夫婦世帯で奥さん(88歳)が不整脈を患っている。脈拍を測定すると服薬効果で100を切っていた。塩分を1日7g以下に抑えている効果もあるが、女性は生粋の江戸っ子である。鈴木副院長に「塩ざけや自分で漬けた白菜が食べたい」とねだる。

 そこで、小林看護部長は台所で夕食の支度をする旦那さんに管理栄養士の食事指導を受けることを勧めた。東伊興クリニックは、管理栄養士も患者宅へ派遣する。

 そして、最後はクリニックそばのアパートに住む脳梗塞で寝たきりの男性(69歳)。病で倒れてから5年間、奥さんと娘さんで看病し、認知症の薬だけもらい続けていたという。小林看護部長が「もっと早く連絡してくれれば」と言いながら男性の体を横にすると、背中にひどい褥瘡(床擦れ)ができていた。手当ての間、鈴木副院長が娘さんに介護保険給付申請を勧めた。

 30分後の午後6時半過ぎ、鈴木副院長と小林看護部長が娘さんと共に、アパートの階段を下りてきた。クリニックまで歩いている間、家計を支える娘さんが「仕事は休めない」と不安を口にする。派遣を打ち切られたくないからだ。

 小林看護部長は「大丈夫ですよ」と言葉を掛けた。