「医療主導」「若者就労」の視点
だけでは足りない「引きこもり支援」

 約18年にわたり、「引きこもり」界隈の取材を続けてきて思うのは、当事者の視点でいまの状況を語れる“専門家”がいなかったことだ。しかし、ようやく最近、そんな専門家が育ってきた。松山大学の石川良子准教授(社会学)も、その1人だ。

 『ひきこもりの〈ゴール〉――「就労」でもなく「対人関係」でもなく』(青弓社)の著書も出している石川准教授は、約15年前から引きこもり界隈の「定点観測」を続けている。そんな石川准教授にも、意見を伺った。

 これからの新しい「引きこもり支援」のあり方を議論するとき、「医療主導」や「若者就労支援」の視点だけでは足りないように思う。答えの見えにくい困難や課題に向き合うとき、当事者や家族の目線からのアプローチや仕組みづくりが、ますます必要とされてきている。

 その転機となるのが、4月1日に施行される生活困窮者自立支援法だ。福祉事務所が設置されている全国の市町村には、同法に基づく相談窓口の設置が義務付けられる。

 しかし、筆者が全国を訪ねてわかったことは、各自治体の担当者が、どこの部署に窓口を開設するのか、どのような体制で対応すればいいのか、情報もノウハウもまだわからない――などといった現場の戸惑いだった。

 意外と知られていないが、生活困窮者自立支援法がつくられた背景にあるのは、世の中の貧困化の流れだけではない。引きこもり家族会の全国組織である「全国引きこもりKHJ家族会連合会」が、引きこもり支援の法的根拠となる法律の設置を要望してきたことを受け、そうした「引きこもり支援」の要素も対象にくっつけて、同法に盛り込まれることになったのだ。

 したがって、同法に基づく相談窓口の対象となるのは、経済的な理由の困窮者だけでなく、「引きこもり」の人たちを含む社会的孤立者など、様々な困難を抱える人たちということになる。そこにはたとえば、LGBTなどのセクシュアルマイノリティの人たちも含まれるという。

 もちろん、形だけ相談窓口をつくって、スタッフが傾聴すればいいというレベルの話ではない。それぞれの相談者の思いを受け止めて、それぞれの意向やペースに合わせた“支援”が必要になってくる。