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百田尚樹『殉愛』で考える
「ノンフィクションとは何か」(上)

降旗 学 [ノンフィクションライター]
【第106回】 2015年2月28日
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 斉藤環という精神科医が二月二四日付けの朝日新聞に寄稿した文章は、正直言って何が言いたいのかさっぱりわからなかったのだが、偏向した内容だったことだけはよくわかった。曽野綾子氏が書いたコラムについてだが、斉藤は、

 『日本の言論界を妖怪が徘徊している。「キャラの立った高齢者」という妖怪が』

 と曽野綾子を評した。なんという無礼なやつなんだろう。

 人を妖怪呼ばわりするような医者に診てもらう患者さんは可愛そうだと思ったが、案外とこの精神科医はメディアへの「露出」がお好きのようだから、病気で苦しむ人なんか二の次に考えているのかもしれない。この精神科医にかかれば、医は仁術ではなく「算術」になるのだろう。とまれ、精神科医を名乗る者が、こんなに「偏向」していていいのだろうか。ヤブなのかも。

 ということで、「偏向」について。私にしては驚くほど短い前フリだ。

 昨年一一月七日、作家の百田尚樹氏が書いた『殉愛』という「ノンフィクション」が発売された。これは、昨年一月に亡くなったやしきたかじんの最期を看取った三番目の妻さくらさんの献身ぶりと純愛を描いた感動的な作品だったのだが、発売から間もなく、『殉愛』に書かれた内容をめぐっての大論争が持ち上がった。

 そのひとつが、たかじんの娘についての表記だ。

 〈その日、たかじんの携帯に娘から「なんや食道ガンかいな。自業自得やな」という内容のメールがあった。それを見た彼は激怒して、「親子の縁を切る!」と言った(中略)たかじんは娘が妻の胎内のいるときに家を出ている。その後もほとんど別居状態だったから、二人の間に普通の父娘のような交流はなかった(中略)父として金銭的には娘に不自由はさせなかった。二十歳前後の彼女がたかじんのマンションに来て、金の無心をしているところを見た者もいる。そのたびにたかじんは数十万の小遣いを与えていたという。娘が三十歳を超えてからも、生活を援助するために「P.I.S.」の名目上の役員にして給料を払い続けている。ただ、二人の関係が傍目にも冷たく感じられたと証言するものは多い〉(P.I.S.:やしきたかじんの個人事務所)

 たかじんがガンを患い、死に至るまでの闘病生活は二年を数えるが、その間、娘は一度も見舞いにも来なかった――、と百田は綴る。たかじんの娘を描く際の百田氏の筆致はかなり辛辣だ。

 これは娘ばかりでなく、本著でK、Uとイニシャルで記された元マネージャー、元弟子らの書き方も、ともすれば「悪意」すら感じられるような貶めぶりでもある。

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降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


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三面記事は、社会の出来事を写し出す鏡のような空間であり、いつ私たちに起きてもおかしくはない事件、問題が取り上げられる。煩瑣なトピックとゴシップで紙面が埋まったことから、かつては格下に扱われていた三面記事も、いまでは社会面と呼ばれ、総合面にはない切り口で綴られるようになった。私たちの日常に近い三面記事を読み解くことで、私たちの生活と未来を考える。

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