1つめの理由:「新人は人間扱いされない」でいいのか?!

 榎園さんによると、料理人は、地域や店による違いはありますが、一般的に、1.見習い(皿洗い・掃除・雑用)2.盛り付け・野菜の下処理3.魚の下処理4.焼き物5.揚げ物6.向板(花板の補助)7.煮方(炊き物)8.立板(副料理長)9.花板(料理長)という流れで修行が進みます。

 一通りの技術が身につくまで、10年はかかるとのことですが、一般的には、1つの店に勤めるのではなく、師匠から「修行してこい」と別の店に送り込まれ、数年ごとにさまざまな店で経験を積みます。

「伝統的な料理界では、師匠に弟子が連なり、巨大な職業集団を形成していました。その上層部に『入れ方』と呼ばれる人たちがいて、弟子たちをあちこちに采配していたのです」

 教え方はスパルタ方式。「理不尽なことは山のようにありました。理由など聞いても教えてくれません。『黙ってやれ』と拳骨が飛んでくるだけです」。

 厳しい修行の毎日でしたが、料理に関して、古今東西の献立・レシピ、調理理論・科学・哲学、歴史・文化、器など万巻の書を古典にさかのぼり読破し、技術と共に知識を身につけることで頭角を現し、料理長まで登りつめます。

 その後、いくつかの有名料亭の料理長を務め、「料理だけでなく経営も学びたい」と、勢いのあった外食ベンチャー経営者と共に、経営にも挑戦。チェーン店を立ち上げるなどして関東に進出。

 成功を収めますが、拡大路線に転じた経営者側に疑問を感じ、衝突。職を失ってしまいます。