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3月3日 18時0分
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交錯するインフレ期待 - 広木隆「ストラテジーレポート」

消費の二極化

先週のコラム【新潮流】第183回「お家騒動」で触れた大塚家具は昨日もストップ高となった。過去3日間の上昇率は85%に達し、もう少しで倍になる急騰ぶりだ。配当を倍にすると発表したことが株価が噴いた理由だが、中期経営計画が市場の信認を集めたというのも背景のひとつにあるだろう。そもそも家具屋さんの業績は上向いている。家具と言うのは概して値がはるものだ。たまに時間つぶしで家具のショールームなどをぶらつくと、ソファひとつで百万円もするのがあったりして、文字通り腰を抜かしてそのソファに腰を落としてしまったりする。そうした高級家具を扱うカッシーナ・イクスシーも14年12月期の業績を上方修正した。なにかの間違いだろうが、ニトリまで同じ家具屋ということで株が買われている。

グラフ1は、大塚家具が増配を発表しストップ高となる前の2月25日現在の株価だ。この時点ですでに上述の3社の株価が上昇していたことがわかる。



家具に限らず高額商品が全般に好調だという。百貨店ではロレックスなどの高級腕時計や宝飾品が飛ぶように売れている。にわかには信じられない話ではあるが、ブルームバーグニュースによると、14年の百貨店の高級時計、美術工芸品、宝石などのぜいたく品の売上高は3330億円に達し、12年の2780億円から20%増加した(日本百貨店協会)。また、1000万円以上の高級輸入車の販売台数は12年の9924台から14年には1万6198台と2年間で63%増加した(日本自動車輸入組合)という。

最近はこれに訪日外国人の消費、いわゆるインバウンド消費が加わっている。三越伊勢丹ホールディングスが昨日発表した2月の売上高は、前年同月比7%増と8カ月連続で前年実績を上回った。14年4月の消費増税以降、最高の伸び率となった。中国の春節(旧正月)を祝う大型連休で訪日外国人の来店が増加。免税売り上げが前年比で約3倍に伸びた。旗艦3店では三越銀座店が25%増と大きく伸び、25カ月連続のプラス。銀座店の訪日外国人向けの免税売り上げは前年の約4倍、全館の売り上げに占めるシェアは25%と過去最高を記録したという。

一方、総務省が先月末に発表した1月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は実質で前年同月比5.1%の減少。冬物衣料の購入などがさえず、10カ月続けて前年を下回った。前月比でも0.3%減少と5カ月ぶりに前月を下回った。株高で潤った富裕者層や訪日外国人観光客のインバウンド消費に牽引される高額品消費と、一般家計の消費態度では完全に二極化している状況である。



物価への影響

当然、最終需要が強くなければディマンド・プル型の物価上昇圧力も起こり得ない。総務省が同日発表した1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)、すなわちコアCPIは前年同月比2.2%のプラス。上昇率は前月より0.3ポイント低下した。消費税増税分を除くと+0.2%と、13年5月(0.0%)以来の水準まで下がった。つまり、日銀が13年4月に異次元緩和を開始した、その振出地点まで戻ってしまったということである。



<これは原油価格の低下によるもので、その原油価格も最近は下げ止まっているから、一時的なものである。今後は賃金アップによる消費回復も見込まれ、インフレ基調は崩れていない> ⇒だから大丈夫だ、というのが、日銀の論法である。しかし、その論法ではちっとも大丈夫ではない。

1. 原油価格は最近でこそ下げ止まっているが、ピークは昨年6月で下げ足を速めたのが昨年10月である。前年比で見た物価の上昇率は、あと最低半年は強烈な下押し圧力がかかり続ける。2. 春闘でのベースアップがさかんに報じられている。昨春の賃金交渉では基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率が15年ぶりに2%台に乗った。それでも消費増税と円安による物価上昇によって実質購買力は高まらず、先に見たように消費不振が続いている。2年続けてベアが実施されれば、前年比で消費増税分の物価押し上げ効果がなくなる4月以降には、実質賃金が前年を上回る可能性があり、消費は夏場以降に持ち直すとの見方も多い。しかし、一旦、節約志向、縮み志向に陥った家計の財布のひもが、たかだか2%の賃上げで緩むわけがないと思う。極端な例を挙げよう。2%の賃上げとは額面50万円のひとの月給が1万円増えるだけだ。手取りでは数千円。これで消費がどれだけ増えるのだろうか。
3. インフレの基調は崩れていないというが、生鮮食品だけでなくエネルギーも除いたベースのインフレ率、いわゆるコアコアCPIも低下している。これは消費が弱く一部の耐久財などが値下がりしているせいである。

一方、1月の鉱工業生産指数(速報値)は前月比4.0%上昇と2カ月連続の増産となった。円安で輸出が伸び、機械や自動車の増産が牽引した格好である。しかし、製造工業生産予測調査では、2月は前月比0.2%上昇、3月は3.2%低下の見通しだ。1月が高い伸びとなった反動もあるだろう。基調として生産が回復していくのを確認するのはまだ先になるだろう。



ディマンド・プル型の物価上昇に転じるのは、どう考えてもまだ当分先のこととなる。

そもそも実際の物価が上がるのを待っているというのは、論旨が首尾一貫していない。日銀の黒田総裁はじめリフレ派のロジックは、「インフレ期待」が大事だというもの。「デフレマインド」を払しょくすることが重要だ、と繰り返し述べていた。であるならば、実績値としてのインフレが高まるのを待つのではなく、実績値が低下している今こそひとびとの期待に働きかける手段を講じるのが筋というものであろう。

僕は4月にも日銀の追加緩和がある可能性をまだ排除していない。日銀ウォッチャーら市場の観測は10月が多いが、10月では遅すぎる。実際のインフレ指標が一度、マイナスに(すなわち再びデフレに)落ち込んでから、ひとびとの期待を引きあげるのは、とても大変な作業となる。

日銀が4月に追加緩和に動くと考える要因は以下の通り。

・ 4月1日に発表される日銀短観で企業の物価見通しの低下が見込まれること。(企業や家計のインフレ期待は維持されている、という黒田総裁の見解を否定するものとなり得る)
・ 4月末の日銀の物価展望レポートで、日銀自身の物価見通しも下方修正される可能性があること。
・ 新・審議委員の原田氏が金融政策決定会合のメンバーに加わること。原田氏は積極的なリフレ論者であり、緩和策に対する賛成・反対の「票」は数の上では5:4でこれまでと変わらないものの、「意見」や「論調」の強さでは以前に比べリフレ派の勢いが増すこと。

財務省が昨日発表した10〜12月の法人企業統計では、全産業の経常利益が比較できる1954年以降で過去最高となったが、この原動力が約2割の増益となった資本金が1000万〜1億円の中小企業。原油安の恩恵によるところが大きい。こうした中小企業は地方に多く、先日の報道にあった通り、地銀の貸出も伸びている。よって一時は地方の中小企業に配慮してこれ以上の円安を望まないという雰囲気が出ていた政府のトーンもかなり和らぐ可能性がある。統一地方選が終わったあとの追加緩和であれば、なおさらハードルは下がるだろう。

上昇に転じたブレークイーブン・インフレ率

ところが、ここで考慮しなければならない要因がある。ブレークイーブン・インフレ率が上昇していることである。それも、日米独のいずれも、である。

ブレークイーブン・インフレ率とは簡単に言えば、普通の利付国債と物価連動国債の利回りの差(利付国債の利回り―物価連動国債の利回り)である。別の言い方をすれば、この両者の利回りが等しくなる(イーブンになる)ようなインフレ率だ。市場が織り込むインフレ期待とも言える。
世界各国の市場が予測するインフレ率が上昇している背景は、原油価格の下げ止まりが大きな要因だが、それだけではない。純粋に景気回復期待を反映していると思われる。今年、利上げに踏み切ると見られる米国は当然として、日本、そしてついこの前まで「日本化」「デフレ化」などと懸念されていたユーロ圏のドイツでさえ、景気回復を見込んで市場のインフレ期待が上昇している。



こうした世界のインフレ期待の高まりが、日銀の政策判断にどのような影響を与えるか、あるいは与えないのか、もう少し考えてみたい。

ただ、ひとつ、注意喚起しておきたい点は、長期停滞説などがまことしやかに語られ、その世界的な低成長が同じく世界的な低インフレ、低金利の背景とされてきたが、われわれの予想を超えるスピードで、そうした「定説」が覆る兆しが出ていることだ。

気が付けば、グローバル景気の改善で実際にインフレが再燃する可能性もある。ブレークイーブン・インフレ率の上昇がそれを示唆している。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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