再分配前所得は格差が大きい日本
高所得者の実態と税負担の問題

「格差拡大を許す日本の税制に見える課題」について、前回は以下の点を述べた。

 わが国の格差は、所得再分配前所得については拡大してきた(再分配後は安定している)が、その理由は高齢化の進展と非正規雇用者の増加である。

 世代間で見ると、高齢になればなるほど格差が拡大し、30代、40代の格差は拡大している。賦課方式で逆進的な社会保険料負担、甘い年金税制など、税と社会保障による所得再分配機能は十分とは言えない。

 世界で比較すると、わが国は再分配前は格差の少ない国だが、再分配後は格差が大きい国となっており、所得再分配機能の再構築は重要な政策課題だ。

 今回は、トマ・ピケティ氏の議論を念頭に置きつつ、わが国の高所得者の実態を見ながら税負担の問題を考えてみよう。

 ピケティ氏は、米国では上位1%の高所得者が全所得の20%を占め、その割合がますます拡大しているという事実を、統計を使って見せてくれた。

 経済成長率(g)より資本収益率(r)が高いので、資本を持つ者はさらに資本が蓄積していく。この不平等は、世襲を通じて拡大するので、それを是正するには、世界規模での資産への課税強化、具体的には純資産への累進課税 が必要という。

 一方わが国では、図表1に見るように、トップ1%への所得の集中度合いは、米国とくらべて大層低い。先進諸国で最も安定しているとも言える。

格差拡大を許す日本の税制に見える課題(2)

 筆者は、米国(や英国、カナダ)の所得が集中している原因は、米国(アングロサクソン)のグリード資本主義、コーポレートガバナンスに問題があると考えている。わが国のようなステークホルダー資本主義のもとでは、ストックオプションなどで巨額の所得を得るCEOが多く出現するとは考えられず、簡単には米国型の所得分布にはならないだろう。

 では、わが国の高所得者・富裕層の実態はどうなのか。入手可能なデータで見ると、わが国の富裕層の姿がおぼろげながら見えてくる。