経営×ソーシャル
おもてなしで飯が食えるか?
【第7回前編】 2015年3月12日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

「おもてなし」が世界に広がらない7つの理由(上)

課題その3:立地確保や従業員採用など、必要な経営資源の調達が難しい

 おもてなしビジネスは店舗や施設を構えるタイプのサービスが多く、立地選定が成否のカギを握っていますが、海外企業が現地で優れた立地を確保するのは至難の業です。好条件の物件情報は先に現地の有力企業間に回り、それでも借り手が見つからないものだけがようやく日系企業にも流れてきます。地縁ネットワークに自ら入り込むなり、ローカルに強いパートナーと組むなりしないと、商売のカギとなる立地でいきなり不利な条件でのスタートとなってしまいます。立地確保のみならず、立ち上げ時の戦力(従業員)の確保も、現地での知名度が乏しい中では思うように募集が進みません。

 また日本では当たり前のように入手できる原材料や備品、当たり前のように利用しているインフラ(電気や水、物流網など)が満足に使えないことも壁になります。例えば飲食店の場合だと、国内で利用しているような卸問屋や食品加工業者がいないので、わざわざ食材を日本から空輸したり、セントラルキッチンを自ら構えて製造を行ったりしなければなりません。あるいは小売業だと、現地の貧弱な物流網に悩まされることが多いようです。例えばセブンイレブンの場合、タイの都市部では交通渋滞によるトラック進入規制のため、現状では1日1回の配送の店が多く、コンビニの命とも言える適時の商品補充が課題となっています※3

課題その4:現地従業員の育成に苦労する

 現地の事業責任者に「何に1番苦労しているか?」と尋ねると、7、8割の確率で「現地従業員の育成」という答えが返ってきます。おもてなしには先ほど述べた同時性がありますから、現地での人材育成の成否がおもてなしの質に直結します。しかし言語や価値観、生活習慣の異なる人材を育てるのは、当事者になってみないとわからない難しさがあります。

 おもてなしの技の指導を伝えるのが難しいのは想像がつくと思いますが、おもてなし以前の定型的な業務に関しても、マニュアルに沿った指導がうまく機能しません。日本人相手だったら教えるまでもなく、マニュアルにも記していないような当たり前のこと――「お客さまに笑顔で接する」や「業務中に私語を慎む」、お辞儀や掃除の仕方など――を海外では丁寧に教える必要があります。そもそも価値観が違うので、その必要性(なぜ掃除が大切か、等)を合理的に理解させ、行動に移してもらわなければならないのです。

 さらに悩ましいのは、せっかく育て上げた従業員が短期間で辞めてしまうため、従業員募集やトレーニングを何度もやり直さなくてはならない点です。現地の従業員の多くは、地方から出稼ぎ目的で都市部に出てきていたり、より良い条件の企業へと転職を繰り返しながらキャリアアップを図ろうとしていたりで、そもそも同じ企業に長く勤め続けるつもりがありません。「育てても定着しない」は海外に進出した企業ならどこでも直面する課題ですが、特におもてなしのビジネスではスキルの高い従業員の数を揃えておく必要があるので、大変悩ましい問題です。

※3 日本経済新聞2014年8月2日「セブンイレブン、タイで独自進化 屋台と共存共栄」

>>後編『「おもてなし」が世界に広がらない7つの理由(下)』に続きます。

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


おもてなしで飯が食えるか?

オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

「おもてなしで飯が食えるか?」

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