それでは、博士らの論文に示されている、1)海外での特許の取得状況と、2)市場拡大戦略における各諸国の具体的な状況を振り返ってみましょう。

1)海外諸国で次々と特許を取得

 カナダ特許庁(Canadian Intellectual Property Office:CIPO)は2000年10月にミリアド社に対してBRCA1遺伝子に関連する特許(特許番号2,196,797と2,196,790)を認め、2001年4月に同社の診断検査(特許番号2,196,795)とBRCA2遺伝子(特許番号2,239,733)にも特許を認めました。

 欧州特許庁(European Patent Office:EPO)は2001年1月に、BRCA1遺伝子の正常な配列を使用して、乳がんおよび卵巣がんの病因を診断する方法に対して、ヨーロッパ最初の特許(EP699,754)を認めました。続いて2001年5月、EPOはBRCA1遺伝子の変異に関する第2の特許(EP 705,903)を発行しました。 さらにEPOは、BRCA1遺伝子に関連する3つ目の特許(EP705,902)を2001年11月に、BRCA2遺伝子に関する特許(EP785,216)を2003年1月に認めました。

 ミリアド社は、オーストラリア(特許番号686,004および691,958)、ニュージーランド(特許番号326,525)、そしてついに2003年10月に、日本(JP3455228)でも特許を取得しました。

2)海外諸国への市場拡大戦略

 カナダにおけるミリアド社のマーケティング戦略は、2000年3月に始まりました。ミリアド社が、MDS Laboratories (MDS)という民間企業と提携し、カナダでBRCA遺伝子検査を独占的に販売するというものです。現地の医師や病院のネットワークを通じて、ミリアド社が、全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)を行い、MDSはBRCA遺伝子の特定の部位だけの解析を行います。

 ミリアド社はヨーロッパでも同様のサービスを始めるのに先立ち、入念な準備をしました。1998年10月にミリアド社は、ユタ州にある研究室にヨーロッパ諸国の研究者らのグループを招待し、特許の問題を議論してBRCA遺伝子検査のライセンスを提供しました。ただし、ヨーロッパでは、各国が独立したヘルスケアや研究のシステムを持っていますので、ミリアド社は各国とそれぞれ交渉する必要がありました。

 カナダと同じ2000年3月、ミリアド社は英国とアイルランドにおけるBRCA遺伝子検査市場拡大のため、Rosgen, Ltdとの提携を発表しました。この契約においても、ミリアド社はRosgen, Ltdに対して英国とアイルランドでミリアド社の特許を施行する権利を認めたものの、英国で実施するのはBRCA遺伝子の特定の部位だけの解析に限り、全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)を請け負った場合は、ミリアド社の米国ユタ州にある研究室に患者さんのサンプルを送る契約になっていました。

 Rosgen, Ltdは検査の実施にあたり、イギリスの医療保障制度を運営している国民保健サービス(National Health Service:NHS)に交渉しました。国営医療サービスは国費でまかなわれており、原則として無料です。契約は、NHSは検査のサービスを無料かつ無制限に提供すること、Rosgen, LtdがNHSとBRCA遺伝子の突然変異のデータを共有すること、NHSは割引価格のサービスの提供をRosgen, Ltdに請求することができるといった内容でした。

 しかし、無料で検査を提供したRosgen, Ltdは、検査による利益が得られず、その後、すぐに倒産し、 NHSとの契約は終了しました。ミリアド社は、NHSとの継続交渉は行わず、Lab21という別の企業と2005年12月にBRCAテスト用のライセンス契約を締結しました。

 スイス、ドイツ、オーストリアでは、ミリアド社の全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)市場拡大のために、Bioscentia社がミリアド社のライセンスを取得しました。ミリアド社はBioscentia社に、患者さんの家族の検査として、BRCA遺伝子の患者さんに認められた変異部分だけの解析を認めています。