株式レポート
3月13日 7時35分
マネックス証券

【新潮流】第193回 入りと出 - 広木隆の「新潮流」

◆ちょうど1カ月前に、今年はバレンタインデーが土曜日だからチョコレートがひとつももらえないと書いた。「若い頃は俺だって...」と言っても虚しくなるだけだ。今は仕事絡みの義理チョコしかもらえない。よってバレンタインデーが休日だと仕事関係の義理チョコすらない。なんとも淋しいかぎりだが、ものは考えようだ。閏年でなければ3月の日並びは2月と同じ。バレンタインデーが土曜日なら3月14日のホワイトデーも土曜日だからお返しをしなくて済む。え?バレンタインデーにもらってないなら、ホワイトデーが何曜日だろうと「お返し」はないだろうって?ごもっともである。入るものがなければ出るものもない。

◆欧州中央銀行(ECB)による量的緩和策(ソブリンQE)が開始された。ECBはマイナス金利、つまり満期まで保有すると損をする利回りでも国債を購入する方針で、買い入れの下限は中銀預金金利(現行マイナス0.2%)までとした。市中の銀行がECBに余剰資金を預ける場合0.2%の「手数料」がとられる。預金しているのに逆にとられるのだからマイナス金利である。説明のため中央銀行のバランスシートを民間の銀行と同じだと仮定すれば、調達サイド(預金)はマイナス金利を付与しているのだから、運用サイドもマイナス金利で運用(国債の買い入れ)をしてもいいことになる。入り払いが両方ともマイナス金利なので直感的に理解しにくいが、理論上は損得なしだ。

◆岩井克人・東京大学名誉教授によれば資本主義とは「差異」を埋めることで利益を生み出す自己増殖プロセスである。ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』の著者・水野和夫先生の主張も同じである。その「差異」の象徴が利子率、もしくは利潤率であり、簡単に金利と言い換えてもいいだろう。その金利がゼロになったのだから、もう「差異」を埋めて利潤を得ることができなくなった、それが「資本主義の終焉」というわけである。

◆銀行は右から左にカネを動かして儲ける。もう少し正しく言えば、低い金利で引っ張ったカネを高い金利で回してサヤを抜く商売である。その利ザヤは僅かでもいい。レバレッジをかければいいからだ。銀行に限らず、ヴェニスの商人の高利貸しだろうが現代のヘッジファンドだろうが、みな同じことをしている。しかし、世界中の金利がゼロとなってしまっては、もうサヤを抜くことができない。「差異」が消滅して資本主義は終わったかに見えた。

◆ところが、である。欧州を中心にマイナス金利という世界が現れた。資本主義は、そしてその資本主義の申し子である銀行とヘッジファンドは「差異」さえあればいい。いや、正確に言えば、その「差異」がプラスならばいいのである。たとえマイナス金利であっても、だ。マイナス2%で調達してマイナス1%で運用すればプラス1%のサヤが抜ける。資本主義の復活である。

 「出る量より入る量が多いと、どのような問題が生じるか?」 この問いに、医師は「肥満」と答え、電気技師は「過負荷」と答えた。銀行家はこう答えた。「それが、なぜ問題なのですか?」

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

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(マネックス証券)


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