電車で突然「心臓バクバク」
パニック障害で会社を退社

 一部上場企業で勤務していた30代のフジタさん(仮名)は、社長のあいさつを椅子に座って聞いている途中、突然、フラッとした。

 その一瞬の記憶がない。ただ、何とも言い表せないような気持ちの悪さに襲われた。

 「何だ、これ?」

 フジタさんは、訳のわからないまま、社長のあいさつの途中で中座させてもらい、トイレに向かった。戻ってくるとチーフマネージャーから、心配そうに「とりあえず、これ飲んどけよ」と、精神を安定させるような薬を渡された。

 薬を飲むと、しばらく落ち着いた。しかし、その日の帰り道、電車に乗っていると、今度は心臓がバクバクと言いだして、息が苦しくなった。このまま死んでしまうのではないかという恐怖感を覚えたのだ。

 何とか帰宅してから、インターネットで「電車」「心臓バクバク」などと検索した。すると、「パニック症候群」とか「パニック障害」などと記されている。フジタさんにとっては、初めて聞く診断名だった。前々回に紹介した「不安障害」の一種といわれている。

 フジタさんがこのようにして、パニック障害に初めて襲われたのは、5年くらい前のことだ。子供の頃から振り返っても、思い当たる節がなかった。

 元々、新しい人に会うのが好きで、営業を任されれば、同僚が受注を1件も取れない中でも、1人ノルマを達成するほど、営業成績はトップクラス。それまでは、うつ病になったり、会社を休んで行方不明になったりする同僚たちがいても、なぜ落ち込むのかも理解できなかったし、どこか冷やかに見ていることさえあった。

 結局、フジタさんは会社を退職。その後、就職活動して入社した大手サービス業の会社も、3週間で辞めた。その会社は、自分に合っているのかどうかさえもわからなかった。

 「間違いなく、そこにいたら、違うと思ったから」と、フジタさんは説明する。

 一体、何が違うと思ったのか?