メンバーが理念を共有する
強靱なジェネラリスト集団へ

 第二創業期を必要とした背景には、ある大きな経営課題があった。離職率が高いのである。採用しても採用しても人材が辞めていく状態が続いた。

 退職の原因は主に二つ。一つはメンバーが自分の思い描いたようなビジネスパーソンとしての成長ができないという不満、もう一つは会社の方向性や自分たちに求められている期待がメンバーに見えにくいという不満だった。

「つまり、離職率が高い原因は、人材育成や採用の方針などがなく、メンバーに会社の方向性を示し、彼らが自分の未来を描けるようにする仕組みがなかったことだったのです」

課題と向き合い、きちんと乗り越えていく。その骨太な経営姿勢が社員を動かす原動力になる。

 そこで、問題解決のために組織風土改革に取り組むことにした。まず、「PDP WAY」という企業理念を再構成し、社員への約束ごとやメンバー同士の関係性の在り方を行動指針として明文化。それからの3年間はあえて会社の規模を大きくせず、“身長伸ばさず筋トレしまくる戦略”と名付けて人材育成に集中した。採用面でも、それまでの人員補充型から理念共感型に方向性を変えるとともに、新卒採用にも注力した。

「創業後の急成長時代のPDPはウェディングにおけるサービスや技術に精通したスペシャリスト集団でした。でも、“エースで4番”ばかりでは組織としては機能しない、かつての読売ジャイアンツのような状態でした(笑)。

 そこで、スペシャリストによる属人的なサービスや技術に依存しない、ジェネラリスト集団としての組織を構築する必要があると思ったのです。個々の技能よりも、理念の共有や組織のマネジメント力、経営陣が考える会社の方向性を咀嚼してメンバーに伝える能力を重視するようになりました」

 評価システムも業績評価であるパフォーマンス評価に加えて、企業理念の体現度合いを評価するロールプレイ評価を導入した。こうした改革によって離職率は改善され、それが業績アップに直結するようになったのだ。

「成長し続けるメンバーがチームとして機能することで足腰の強い組織ができ上がる」と杉元社長は強調する。

「感動の技術化」により
サービスの標準化を実現

 ジェネラリスト育成は効率性の向上につながる一方で、サービスや技術による差別化が失われるというトレードオフもある。それを補うために取り組んだのが「感動の技術化」だった。

「人が感動する場面にはある種のパターンがあります。たとえば、結婚式で最後に両親へ向かって手紙を読むシーン。照明が少し暗くなって切ないBGMが流れ始めると、ほとんどのお父さんが涙を流します。結婚式というのは主役のお二人の個性が随所に現われます。その中でもポイントになる部分を外さずに演出をすることで感動度や満足度を上げることができます」

 こうした「感動の方程式」を見つけ出して平準化するために、過去のお客様に感動を提供できた事例やパターンをデータベース化した。いわば、スペシャリストによるブラックボックス化したノウハウをデータに置き換えて、誰もが使えるカルテのようにストックしておく。感動の技術化により、メンバー全員がレベルの高い感動の創出ができるようになった。

 ウェディングだけでなく、レストラン事業などにもそういったパターン分析が応用されている。

「弊社のレストランを訪れるお客様は、単に空腹を満たすための食事というよりも、記念日やデート、友達同士の楽しい集まりなど、食を通じてその場が楽しいひとときになることを求めています。つまり、来店する理由が明確です。

 このお客様が今日なぜこの店に来ようとしたのかをヒアリングすると、感動するポイントが必ず見つかります。私たちはこれを“記憶の抽出”と呼んでいます。それを抽出した上で、どのタイミングで何をして差し上げればお客様の心が躍る瞬間が訪れるかを考えるわけです」

 感動の技術化を一方で支えているのがITだ。個人の記憶のみに依存していた顧客情報をITによって他のメンバーとも共有できるようなシステムを導入。顧客が望むサービスを全メンバーが把握できるようになっている。