アラブ 2015年3月25日

教えて! 尚子先生
アルジェリアで起きた人質事件の背景には何がありましたか?【中東・イスラム初級講座・第20回】

2011年に始まった「アラブの春」と呼ばれるアラブ民主化運動後、唯一の成功国といわれていたチュニジアで、思わぬテロ事件が発生しました。今回は、今から2年前にアフリカのアルジェリアで起き、日本人10名が犠牲となった人質事件の背景について、尚子先生がわかりやすく解説します。

●参考記事:教えて!尚子先生 「アラブの春」とはなんですか?

 外国人観光客で賑わうチュニジアの首都・チュニスで起きたテロ事件。地中海クルーズに参加していた日本人3名の方が犠牲になりました。アフリカでは今から2年前にも北部の国アルジェリアでイスラム系武装組織による人質事件が発生し、日本人10名が犠牲になっています。今回はそのアルジェリア事件の背景を考えます。

 2013年1月16日、アルジェリア南東部イナメナス(リビア国境付近:地図参照のこと)の天然ガス精製プラントが「イスラム聖戦士血盟団(以後、血盟団)」というグループによって襲撃されました。

 襲撃後、血盟団は「マリに対するフランス軍の軍事介入の中止」を求め、施設内に残っていた800名以上を人質としました。この天然ガスプラントはアルジェリア国営企業であるソナトラック、イギリスのBP(旧名ブリティッシュ・ペトロリアム、2001年よりBPが正式名称)、ノルウェーのスタトイルなどによって経営されており、プラントの建設は日本の日揮が請け負っていました。そのため、日本人やイギリス人など外国人41名が人質となりました。

 日本政府などが人質の命を尊重するように求めていましたが、アルジェリア政府は武装組織との交渉を拒否し、翌17日には人質を車に乗せて施設外に出ようとした犯人グループの一部をアルジェリア軍が攻撃しました。21日にはアルジェリア軍特殊部隊が施設内に突入し、その結果、23名の人質が死亡しました。アルジェリア政府の発表によれば、人質以外の人もあわせると8カ国、39名が死亡しました。そのうち、10名が日揮の関係者である日本人でした。

 この事件の首謀者は、モフタール・ベルモフタールというアルジェリア人でした。彼は事件の前年の10月に「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」からマリ北部の司令官の地位をはく奪され、「イスラム聖戦士血盟団」という分派組織を立ち上げたばかりでした。人質事件はこの発足したばかりの組織の名前を広め、AQIMを見返すためにも、「大きな事件」を引き起こす必要があったのだと考えられています。

 ベルモフタールは1991年にアフガニスタンにわたり内戦に参加し、その後アルジェリアに戻り、AQIMの前身となる組織の立ち上げに関与したといわれています。彼は2003年以降、活動拠点を北部マリに移し、頻繁に外国人を誘拐しては身代金を要求していました。10年間で得た身代金の総額は80億円を上回るといわれています(タイム誌によれば、スペイン、イタリア、フランス、スイス、オーストリア、ドイツ、カナダが彼らの要求に応じて身代金を支払ったそうです)。

 また、タバコの密輸にも関与していたために、彼は「ミスター・マルボロ」と呼ばれていました。ですが、彼は人質をすぐに殺害するAQIMとは異なり、むしろ粘り強く交渉して身代金を巻き上げるのが得意で、AQIMとの仲たがいは身代金の分配をめぐる争いであったとうわさされています。

サハラ砂漠=メルズーガ/モロッコより【撮影/安田匡範】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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