ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
森達也 リアル共同幻想論

代官山で家賃1万8000円の理由とは?

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第11回】 2008年7月7日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 20代後半の時期に代官山に暮らしたことがある。

 などと書き出すと、何とセレブでハイソでリッチなのだと思う人がいるかもしれない。でもその頃の僕はマイナーな演劇青年。新劇の劇団の付属養成所に通いながら、公演や稽古の合い間を縫ってのアルバイトで、やっと食いつなぐような日常だった。

 つまり、セレブでハイソでリッチどころか、「氷雨の夜に飢えと寒さに震えつつも髭をなでながらオレより偉いやつなどこの世にいない」と自分に言い聞かせている貧窮問答歌(山上憶良)のような日々だった。ただし、山上憶良にはひもじくて泣く妻子がいたが、そのときの僕にはまだ妻子はいない。その意味ではとりあえずは怖いもの知らずだ。でも将来の不安には、時おり押しつぶされそうになっていた。

 バイトに行けるあいだはバイト先で食事が出る。銀座のスエヒロでバイトをしていたときは、客の食べ残したステーキやハンバーグの固まりを、ゴミ袋にこっそり入れて持ち帰ったりしていた。アパートにはいつも、同じように貧乏な友人たちがごろごろしていたから、みんなでもう一度焼けば美味しく食べられる。

 ところが公演などが近づくと、連日の稽古でバイトにも行けないのでかなり悲惨な状況になる。だからそんなときの主食はインスタントラーメン。具は何もない。卵すら買えない。でもインスタントラーメンばかりが続くと(この頃は1日2食が普通だった)、さすがにビタミン不足が気になってくる。だから時おり、アパートの近くに生えている野草を摘んできてラーメンに入れていた。タンポポやハコベやオオバなどいろいろ試したけれど、ハコベがいちばん食べやすかった。オオバやタンポポは食えたもんじゃない。ハコベも生だと苦味があるが、火を通すと何となく小松菜のような味になる。

 状況劇場に所属していた友人と1回だけ、それこそ清水の舞台から転がり落ちる覚悟で、焼肉食べ放題の店に行ったことがある。確か料金は1200円くらいだったと思う。僕や友人にしてみれば、ほぼ3日分の食費に相当する。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

「森達也 リアル共同幻想論」

⇒バックナンバー一覧