勇気を持って
まず話すことの重要性

 後半のパネルディスカッション「今、求められる世界との対話力」には、世界を舞台に活躍してきた3人のパネリストが登場。キャスターの小谷真生子氏がモデレーターとなってディスカッションが行われた。

G&S Global Advisors Inc.
代表取締役社長
橘・フクシマ・咲江

 口火を切ったのは、橘・フクシマ・咲江氏だ。「コミュニケーション力という点で一番大切なのは、外柔内剛の精神。つまり核にある信念は譲らないが、人の意見をよく聞き、反論すべきはすること」。

 藤崎一郎氏は、勇気を持ってコミュニケーションを取ることの重要性を説く。「世界に出ていくためにはやはり英語が必要だ。その意味はヒアリングと意思疎通の力だ。世界にはものすごい発音でも堂々と英語を話すノンネーティブがいる。日本人も発音なんて気にせずに、どんどん話す積極性が大事」。

 Christopher J. LaFleur氏は、「日本人は会議の場では発言できないのに、カラオケバーでは歌が下手でもマイクを持つ(笑)。英語もカラオケと同じような気持ちでしゃべればいい。それができれば、英語力世界一の国になるかもしれない」と指摘した。

前アメリカ合衆国日本国大使館大使 日米協会会長
藤崎一郎

 語学力以前の、踏み出す勇気が必要というのは3氏に共通した考えだ。しかし、実際の会議の場などでは臆して発言できない日本人は多い。具体的にはどうすればいいのか。

「米国での取締役会で議論が沸騰すると、私も口を挟めなくなる。そこで、なるべくじっくりと人の話を聞き、それらを踏まえた上での自分の意見を、会議の終盤で述べるようにしていた。そうすると印象を残すことができる」と橘氏。

 これに対して藤崎氏の意見は逆だ。「私は、いの一番に発言することをお勧めする。すると、後の人は私の意見を引用して議論を展開してくれる。人の後では、違う意見を言わなければいけなくなる」。

 LaFleur氏も同意見を示す。

在日米国商工会議所会長
Christopher J. LaFleur

「会議の最後に発言することが有利になる場合もある。しかし米国では、活発に意見を出さない人は参加していないと見られる。会議によって戦略を変えて臨むのがいいだろう」

 次に話題は日本の語学教育へと展開した。

「日本の公立中学で新しく英語教員になる人は年間1000人。彼らを全員国費で留学させるべき」と藤崎氏。これには橘氏も賛成し、「日本人の海外留学は8年ぶりに増加した。その背景には、人材採用で海外経験を考慮する企業が増えたことがある。企業がもっとそのようなメッセージを打ち出していけば、若者も親も留学に積極的になれる」と語った。

 LaFleur氏は、「日本人はビジネスにおいてもコミュニケーションにおいても悲観的で、リスクを取らない。リスクテーカーになることが今後の課題だ。そういう教育を企業でもしていただきたい」と日本企業への期待を語った。

 3人の白熱したディスカッションは1時間半に及んだ。グローバルキャリアを目指す参加者にとって、重要なヒントを得る機会となったことだろう。

韓国、インドネシアの事例から学ぶ

前イ・ミョンバク政権 広報主席秘書官
李 東官

 政治でもビジネスでもコミュニケーションは重要だ。相手に納得できるストーリーを示すことが、コミュニケーションを成功させる鍵になる。私には失敗した経験がある。イ・ミョンバク政権の広報主席秘書官を務めていた時だ。米国産牛肉の輸入解禁を進める政府に対して、野党がBSE問題などを掲げて反対し、支持率が20%付近にまで落ち込んだ。失敗の原因はストーリーテリングのまずさにあった。もっと国民の立場から説明すべきだったと思う。しかしその後、「ビジネスフレンドリー」を掲げ、法人税を大幅に引き下げるとともに、零細企業や庶民に優しいというイメージを打ち出していったことで、支持率は大幅に回復した。
 相手をよく知り、相手のニーズに合ったストーリーテリングをすることが、国家間のコミュニケーションにおいても重要だ。

元 在中国インドネシア大使、Susi Air CEO
Mayjen TNI(Purn) Sudrajat

 インドネシア政府の優先課題はインフラ整備や経済成長にあり、英語力向上などを政策に掲げたことはない。しかし民間企業は、英語力の重要性を認識するようになっている。
 近隣のシンガポールはグローバル化を成功させたいい例だ。中国系国民が多数なのに英語を第1言語と定め、第2言語をマレー語、中国語、タミル語とした。結果、人々は自然と英語を使うようになりグローバル化が進んだ。政府によるスキル開発の好例といえる。
 しかし、そのまままねるのはインドネシアにとっても、中国、日本にとっても難しい。恐怖心や偏見、文化の違いもあるからだ。ただ、文化にしがみつくのではなく、他国の文化の良いところを受け入れることが大事だ。そうすれば新しい風が吹くはずだ。変化の担い手として、英語というツールを受け入れていきたい。