ジョージ・A・アカロフとロバート・J・シラーの2人による『アニマルスピリット』(山形浩生訳、東洋経済新報社)をおもしろく読んだ。主にマクロ経済に対する人間心理の影響を説いた好著だ。これまでの経済学が扱わなかった重要な要因として、「安心」「公平」「腐敗と背信」「貨幣錯覚」「物語」の5つについて語っている。いずれもおカネの運用に関係する概念なので、その観点から読んでもおもしろいのだが、特になるほどと思ったのは、人は対象や状況が「安心」であるか否かによって極端に行動が変わるという指摘だ。

 人はリスクとリターンのバランスを厳密に比較するようなかたちで意思決定するのではなく、「それは安心か?」というレベルで安心できれば、たとえば住宅ローンを組むし運用商品にも投資する。逆に、「安心」が損なわれると、リスクに対する態度は急変し、金融機関同士はおカネを貸さなくなるし、個人は消費行動を萎縮させて、マクロ経済的にはケインズの乗数効果の逆とでもいうべきマイナスの「安心乗数」効果が働く。したがって、現在のような状況では、金融機関を含む個々の経済主体が「安心」できる状況や「物語」を与えることが大事だという。

 投資家も、安心なのか、そうでないのか、といった2分法的な意思決定をすることが多い。

 たとえば、利回りが数パーセントに及ぶ個人向けの社債などは、その利回りをデフォルト確率と比べて投資するかどうかを判断しなければならないはずだが、「有名な会社だから、大丈夫だろう」とか「政府は銀行をつぶさないだろう」といった物語に対する安心感で決めてしまっている個人が大半だろう。個人が社債の信用リスクについて判断できる材料と判断力を持っていることは稀だろうし、だからこそ、そこにつけ込んで個人を対象に社債が発行されている。発行者側が払ってもいいと思うような利回りでは機関投資家が買ってくれないから、手間のかかる個人を対象に発行しているのだ。