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グローバルM&Aが失敗する理由(1)

松田千恵子 マトリックス株式会社 代表
首都大学東京大学院 社会科学研究科経営学専攻 教授
日本CFO協会 主任研究委員

 「次世代に向けての成長」──重要なテーマであるが、取り組みは難しい。自信のない経営者ほど“青い鳥”を探す。「グローバル化により新しい市場を開拓します」。そのために、「海外企業のM&Aを加速します」。そして、その多くは失敗する。

 失敗の言い訳に、外部環境を持ち出すのはよくある手段。次に多いのが被買収会社、現在の自分たちの子会社が実はなっていない代物だった、という言い訳である。曰く、「ガイジンが言うことを聞かない」「モノ作りのやり方を教えたいのに拒否される」「売上を上げようという気がない」「報告・連絡・相談がない」……最後には「やはりM&Aの後のPMIは難しい」となって、いまやM&Aサービス会社の行うPMIセミナーやコンサルティングは大流行である。

 これらの言い訳、よく見ればすべて「相手のせい」である。タチの悪い企業を相手に、たまたま買収などを仕掛けてしまったのが間違いだったと言わんばかりだ(というか、言っている)。しかし、こうした言い訳をしている経営陣のもとで働くミドルによくよく聞いてみれば、事の発端は、ほとんどの場合「買った側の問題」だ。

 言い訳に走るような経営陣の行うM&Aは、ある意味結構「無邪気」である。買収して傘下に収めた企業は子会社、自分たちは親会社であり、「子は親に従うもの」と信じて疑わない。また、日本における「モノ作り」「おもてなしの心」には多大なる自負心を持っている(悪いことではないが)。そのため、そのやり方を早く「子会社」に注入したくてたまらない。「あの工場のやり方は古い。ウチの新しい技術さえ導入すればもっと良くなる」「やはり顧客にはもっときめ細かなサービスをしないと」云々。

 事業経験の長いトップなどは、プロセスに手を出すことにやる気満々である。そのくせ、海外企業に単身乗り込んでいくのはちょっとコワイので、「子会社の自主性に任せるべき」と、被買収企業の既存経営陣をそのまま残留させて事業にあたらせようとする。

 また、「親会社」は成長を模索している真っ最中。そうでなくても日本の企業の多くはまだ売上至上主義だ。親会社のノウハウを注入し、一方で現地のマネジメントが頑張ってくれれば売上が上がるだろうと期待に胸を膨らませている。

 一方で、「子会社」にされてしまった海外企業は、実はこんなことには露ほども関心がなかったりする。親の心子知らず。だが、そもそも「親会社」「子会社」などという、何とも言えず日本的な関係には縛られてはいないのだ。被買収企業にとっては、M&Aが行われて日本企業に買収されたというのは、単に「株主が変わった」ということに過ぎない。投資ファンドから買ったりしようものなら、なおさらその傾向は顕著である。

 しかも、新たに株主となった日本企業が、株主が選任すべきマネジメント陣をそのまま残留させたのなら、「株主は我々に経営を委託しているのだから、あとは結果責任を全うすればよいはずだ」と考える。結果責任を図る指標は、世界標準でいえば「企業価値」である。これを上げれば文句は出ない。現地の経営者はそう考える。

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