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デジャヴュではない - 広木隆「ストラテジーレポート」

以前も「デジャヴュ」というタイトルでレポートを書いたことがある(2011年8月22日付けストラテジーレポート)。

デジャヴュ=既視感(きしかん)とは、実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じることである。だから、以前実際に起こったことを再び目の当たりにすることはデジャヴュとは言わない。既視感ではない。実際に見ているのである。ただ、忘れていただけで、改めて目にして思い出し、そして驚く。なんとも間抜けな話である。

先週金曜日に発表された米国の雇用統計で、NFP(ノンファームペイロール:非農業部門の雇用者数)は前月比12万6000人増。25万人程度を見込んでいた市場予想の半分だ。この日はイースターのグッドフライデー(聖金曜日)で株式市場は休場で取引がなかった。しかし、薄商いとは言え、株価指数先物は取引されており、ダウ平均先物とS&P500先物の両方ともそろって約1%下落した。

これは3年前のイースターの再現である。2012年のイースターもグッドフライデーが月初第1週の雇用統計の発表日に重なった。株式市場が休場となるなか、発表されたNFPは20万人増の予想のところ、その約半分の12万人増。無論、強烈なネガティブサプライズである。現物市場は休みだったが、取引されていたダウ平均先物とS&P500先物が1%安となった。これをもって「デジャヴュ」にも似た、いつか見た光景だ、と述べたのである。

3年前、イースターの休場中に発表されたNFPが大幅に下振れしダウ平均先物は138ドル安となった。その後の展開はどうであったか。休場明けの月曜日は先物の結果をなぞるようにダウ平均は130ドル安。だが、その時点でもまだイースター・マンデーで休みから戻ってきていない投資家も多く、完全にはNFPの悪化を織り込み切れていなかった。翌火曜日になってダウ平均は200ドル超の大幅続落となった。

日経平均も雇用統計を受けた月曜日に140円安。当時の日経平均は1万円を割り込んでいたから率にして1.5%安程度の反応だった。

ダウ平均の200ドル超の大幅続落を見た水曜日の東京市場、日経平均は79円安にとどまった。その後、木曜金曜と反発してその週は結局、前週末比50円安。米国のダウ平均も水曜日には反発し、そこから1週間後、翌週の火曜日には雇用統計で急落する前の水準、1万3000ドル台を回復している。結果だけ言うと、イースター休暇中の雇用統計ネガティブサプライズによる市場の動揺は限定的だったということである。

今回はどうか?3年前よりさらにダウンサイドへの影響は限られるだろう。
まず当時と今とでは経済状況がまるで違う。当時の米国では、雇用の回復は鈍く失業率は8%台にあった。QE(量的緩和)を求める声が強く、実際にそれから半年も経たずにQE3が発動されることとなる。欧州では債務危機の混乱がまさに佳境に向かう最中であった。日本は震災から1年経ったが復興は全般的に遅れ、民主党政権下での政治・経済の行き詰まりが限界に達しようとしていた。言ってみれば世界経済は満身創痍の状況にあった。

翻って今はどうか。米国はQEを終わらせて利上げに向かっている。ゼロ金利解除の時期や利上げペースなど不透明な要素はあるが、金融政策を非常時のものから正常化しようというところにあるのは間違いない。それほど経済状況は改善している。日本も1年前の消費税増税の影響がようやく剥落しつつあり、景気回復が徐々に鮮明になっている。今後は原油安の効果がますます出るだろう。マクロも良いが、今はミクロ、すなわち企業が日本経済を牽引している。昨日の日経新聞1面トップの記事は、「上場企業の株主還元、昨年度最高の13兆円  資金活用に動く 業績拡大、投資や賃上げも 」というものだった。記事はこう述べている。

<先行きに自信を持ち始めた企業が、経営の3要素であるヒト(人件費)、モノ(設備投資)、カネ(株主還元)にバランス良く資金を配分・活用するという構図だ。> <賃上げや配当増額は家計に追い風となり、個人消費を押し上げる。自社株買いが投資家に評価されて株価が上がれば資産効果も生じる。また、設備投資が盛り上がれば生産財の需要増や中小企業への発注増などに波及していく。>

そういう状況下での、もともと振れの大きなNFPの下振れである。大きな影響はないだろう。そして、ここが決定的に重要な点だが、雇用統計の中身自体は前回よりもずっと良い。
失業率は5.5%で変わらなかった。一番の注目は時間当たり賃金が伸びたことだ。前月比0.07ドル増の24.86ドル。前月比0.3%増と予想以上に増えた。前年同月比では2.1%増加した。労働参加率は62.7%と、前月から0.1%ポイント低下したが、FRBが注視する本人の意に反して職探しをあきらめた人や、正規雇用を望みながらパートタイムで働く人を含めたU6失業率は10.9%と、前月の11.0%から低下し、約6年半ぶりの水準に改善した。また、27週間以上失業状態となっている長期失業者数も減少した。つまりイエレンFRB議長が重視する「労働市場の質」が改善している。

以上の点を考慮すると、週明けの東京市場は寄り付きこそ売りに押され反落して始まることが予想されるが、比較的底堅い動きではないかと思われる。下値では個人投資家の押し目買いや公的資金の買いが入る思惑などが高まりやすく、それが相場の下支えになるだろう。

米国市場の動きを見ても、株価指数先物は前述した通り、たかだか1%安にとどまっている。10年債利回りは1.80%まで低下したあと若干上昇し、前日比では7bpsポイントの低下。そしてニューヨーク外国為替市場で円相場は上昇し、一時118円71銭と3月26日以来の円高ドル安水準を付けたが1ドル118円95銭〜119円05銭で取引を終えた。片足が119円台。それほど円高ドル安にはなっていない。一目均衡表では雲の上限にワンタッチ(グラフ1)。いかにも「NFPが下振れしたので仕方なく円高になってみました」という感じの動きである。



そして「底堅い」とする最たる理由は冒頭に述べた通りである。

<以前も「デジャヴュ」というタイトルでレポートを書いたことがある>

つまり、何遍も同じようなことを繰り返しているのである。何度も同じような下振れだのサプライズだのをやってきた。そのたびに、それを克服して今の株価がある。ひろーい意味で、このような展開は「織り込み済み」であろう。




(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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