本来、10兆円くらいあってもおかしくないのに2000億円程度で留まっている市場がある。「寄付市場」である。チャリティ先進国のアメリカと違って、日本では「寄付とは、消費行動のひとつである」という認識があまり浸透していないため、寄付市場もあるべき姿になっていない。マーケティングが足りてないのだ。

 日本で寄付が集まらない理由として、税制の問題を挙げる人が多いが、実は「寄付マーケティング」が足りてないことのほうが要因としては大きい、と筆者は考えている。マーケティングが足りてないから、消費文化としての寄付文化が育っておらず、寄付市場も成長してこなかった。

 また、寄付が消費行動であるという認識がなかったから、企業も「寄付なんてモノは、自分たちには無関係なもの」としか考えることができず、せいぜい社会貢献活動の中のアイテムのひとつという程度の認識と取り組みしかしてこなかった。そこに未開拓の市場があるとは考えてこなかった。

 しかし、日本ファンドレイジング協会常務理事の鵜尾雅隆氏が指摘するように、「寄付とは、社会とのコミュニケーション」である。単なるお金のやりとりではない。NPOやNGOが、消費者との間で、さまざまな社会問題に関してコミュニケーションをする。そのコミュニケーションに説得性があれば、本当に社会の役に立つと理解されれば、寄付という方法で消費者は反応してくれる。

 そして、企業活動もまた、社会とのコミュニケーションに他ならない。であれば、社会貢献意識が高まる中、寄付する人たちの「理由」、その背景にある「思い」を知ることは、今後の企業活動にとっても重要ではないかと思う。

 そこで今回は、途上国の子どもたちへの教育支援を行なうNGO「Room to Read(RTR)」を通じて、途上国に学校を寄付した人たち。すなわち、数百万円規模の寄付をした人たちに取材して、寄付した理由と思いを語ってもらった。

大学時代の約束を果たした28歳の青年。
新婚旅行中に寄付を決意

 窪田剛さん。28歳。今年8月に結婚したばかりの新婚さんだ。その窪田さんが、新婚旅行から帰ってきた直後の9月、RTRにコンタクトし、学校を寄付したいと申し出た。寄付金額は約300万円だ。

NGO「Room to Read」
窪田さんが今回、寄付先に選んだNGO「Room to Read」。現在、アジアを中心とした途上国9ヵ国で、学校建設、図書室建設、少女奨学金といった支援活動を行なっている。
【写真提供:Room to Read】

 窪田さんは大学時代、東南アジアをバックパックで旅行した。その最中に例の9.11事件が起こり、いろいろと考えるきっかけになった。そして、現地で仲良くなったカンボジアの人たちと「学校を作る」という約束をした。その約束への思いがずっと残っていたのだ。

 しかし、一方で美味しいモノを食べて、いいマンションに住んで・・・などという「チャライ人生」への憧れも捨てがたく、両方を実現するにはどうすればよいか考えたという。自分で会社を作って成功させて売却するか、軌道に乗った段階で他人に経営を任せて社会貢献活動に専念するか。いずれにしても、早期にビジネスで成功することが必要だと考えた窪田さんは、「それならばベンチャー企業に入って会社経営のあらゆることを若いウチに勉強しよう」と決心。入社したベンチャー企業は数年でIPOを実現し、上場のプロセスを全て勉強することができた。その後は、株式投資をしながら、自分で会社を経営すると同時に、投資顧問会社で投資関連の仕事もこなしている。