発売後2週間で年間売り上げ目標の8割を売った、キリンビバレッジの「別格」。発案者は佐藤章社長だ。「FIRE」や「生茶」などの人気商品を世に出し、その敏腕ぶりは知られていた。社長就任後、初の大型商品として手がけたのが「別格」だ。

何かを度外視すると生まれる
「市場創造型」商品とは

 キリンビバレッジは「大振り」をしてくる企業だ。「メッツコーラ」が好例だろう。2007年、同社の研究所が「食事の際に脂肪の吸収を抑える」成分があると、上層部にトクホ飲料の開発を打診した。その頃、トクホ飲料と言えばイコールお茶で、社内では「当然お茶だよな」といった空気が流れていた。

「ホームランか三振か」<br />大振りが当たったキリン「別格」開発秘話<br />素材も価格も常識外れで大ヒットしたキリンビバレッジの「別格」。「三振」をいとわず「ホームラン狙い」をする社風はどのようにして生まれたのか?

 そんな中、マーケティング担当者らが出した結論は「コーラをつくる!」だった。当時は既に「黒烏龍茶」や「へルシア緑茶」が存在し、トクホのお茶の市場に勝機はないと見たのだ。

 なぜコーラだったのかと言えば、コーラであればハンバーガーやポテトチップスなど、油っぽいメニューと一緒に食べてもらえるからだった。また、キリンの自販機にはコーラ飲料がなく、もし売れれば自販機の核となる商品ができる、という目論見もあった。

 この経緯を、佐藤章社長が振り返る。「飲料の市場には、毎年、数多くの新商品が出ます。しかし翌年以降も残って定番化するのは数種類だけ。ヒットする商品は1000のうち3つ――いわゆる『千三つ』の市場なんです。だから『ある程度売れる常識的な商品』でなく『ホームランか三振』でなきゃいけないんです」。

 こういった「市場創出型」商品の例は枚挙にいとまがない。例えば「世界のKitchenから」。キリンビバレッジの社員が実際に世界に出て行き、各国の料理や飲料を元に、日本市場で新しい飲料を開発する。この商品の開発では、CMで自社社員が海外の主婦などから作り方を教わっている様子が流されるなど、商品にバックストーリーを持たせ、同時に、企業イメージのアップをはかった。

 また「飽き」が早い市場にも対応した。通常、飲料のブランドはカテゴリーが決まっている。「FIRE」はコーヒーだし、「午後の紅茶」は紅茶、といった具合だ。だが「世界のKitchenから」のコンセプトであれば、挑戦的な新商品を次々と市場に投入できる。実際に、「ピール漬けハチミツレモン」「とろとろ桃のフルーニュ」などを市場に投入し、飽きさせない展開をしたあと、11年に発売した「ソルティライチ」が大ヒットし、定番化を果たしている。

 こうした、“常識”を破った製品開発に豪腕を発揮した佐藤章氏は、NHKの「プロフェショナル 仕事の流儀」で取り上げられたこともある、“伝説のマーケッター”だ。その彼が14年に社長に就任し、直轄のプロジェクトで開発したのが「キリン 別格」だ。コーヒーやウーロン茶、日本茶など6種類で展開している。