長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉
【第13回】 2015年4月9日 樋口直哉 [小説家・料理人]

思い煩うことなく酒を飲み、長生きした井伏鱒二

 その言葉を聞いた開高は、参りましたとばかり笑うしかなかった。悩みがちなこの小説家は井伏よりも先に逝ったが、井伏の長寿の理由はこんなところにあったのかもしれない。

 ひょうひょうとして動じず、悩みもユーモアで包み込む。好きなものを食べ、酒を飲む。井伏は特にウイスキーを愛した。「飲んだ時は酔った方がいい。飲んで酔わないと体に悪い」とうそぶき、二日酔いの解消法はぬるめの風呂に入り、ゆっくりと沸かしていくという体に悪そうな方法だった。それで酔いが冷めたら、また飲みはじめる。それでも95歳まで作家は生きたのだ。

 井伏が訳した「于武陵の勧酒」という詩は特に知られる。

「この杯を受けてくれ、どうぞなみなみと注がせておくれ、花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ」

 人生は思い煩うことなく過ごすべきだ。誰かと酒を酌み交わす時間、今、この瞬間、瞬間を大事にしなければいけない。そう、誰もがいつか別れるのだから。

※参考文献/『ウイスキー粋人列伝』矢島裕紀彦著

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉

1日でも長く生きたい――。きっと多くの人が望むことだろう。では、実際に長生きをした人たちは何を食べてきたのか。それを知ることは、私たちが長く健康に生きるためのヒントになるはずだ。この連載では、歴史に名を残す長寿の人々の食事を紹介。「長寿の食卓」から、長寿の秘訣を探る。

「長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉」

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