ちなみに、米国の大学は、その大きさによってディビジョン1〜3に分類されていて、トップ選手はトレーニング環境が恵まれた最大級のディビジョン1で活躍します。ディビジョン1では、学生に奨学金を多く提供し、多くのアスリートがプロフェッショナルになることを目指します(ただし、実際プロになれるアスリートは1%以下と厳しい競争率です)。

 さて、この訴訟以降、全米大学体育協会はディビジョン1と2の大学のアスリート全てに、鎌状赤血球形質の遺伝子検査を強制しました。もし、検査を拒否した場合は、健康上の問題が起こっても訴訟を起こさない、という契約を結ばなければなりません。

http://www.ncaa.org/health-and-safety/medical-conditions/sickle-cell-trait

 これに対して、米国血液学会(American Society of Hematology :ASH)は、アスリートはそうした検査を受ける必要はなく、状況を開示する必要もないと異議を申し立てました。ASHは、世界最大の血液疾患に対して取り組む、100ヵ国の1万5000人以上の医師や研究者で構成される学会です。ASHは次のように述べています。

「全米大学体育協会のポリシーに、医学的根拠はありません。大学のアスリートの健康を守るより、訴訟を回避することを重視しているのです」

http://www.medpagetoday.com/Orthopedics/SportsMedicine/36947

 ところで、前回この連載で遺伝情報差別法を話題にしました。全米大学体育協会が独自の規則を作っても、鎌状赤血球形質の遺伝子差別は、この法律で保護されています。今後、全米大学体育協会に対して訴訟が起こる可能性はあります。

http://www.nchpeg.org/index.php?option=com_content&view=article&id=97&limitstart=1

 子どもの遺伝子検査は、非常に慎重に検討されなればならないはずです。特定の子どもが排除されたり差別を受けるリスクがあります。今回は、アスリートにおける遺伝情報差別を例に挙げましたが、同様に精神疾患のリスクのある子どもが、希望の大学に入学できなくなるなどの差別が懸念されています。遺伝情報は、人生の選択肢を広げることもありますが、同時に狭めるリスクがあることにもっと目が向けられなければなりません。