社会性に憧れるアーティスト
世の中とつながることがモチベーションに

:多くの人と面白がれるという状況は、モチベーションにもつながりますね。多くの会社では役職というものがあって、出世するとか報酬が上がるとか社会的地位が上がるとか、そういったことが個人のモチベーションの1つの源泉になっていますが、東京R不動産のモチベーションを左右する特に重要なファクターは、「面白さ」と「納得感」です。

「面白さ」は自分が好きなものを見つけ、それを好きな人に伝えて喜んでもらうということ。好きなものを探すこと自体、モチベーションが高まる行為ですよね。それに加えて、チームやお客さんなど自分を取り巻く人間環境が面白いということも大きい。日常的に好奇心を刺激される環境も、モチベーションを高めます。

「納得感」は、東京R不動産においては、自由とフェアネスがあること。頑張れば返ってくるというのは大事ですよね。あとは、役割が「歯車」にならないということですね。1人で1つの物件を担当すると、仕事の中身や評価への納得感が得られますから。

 人間は1つの軸だけでテンションがあがるわけではないので、数字だけで活を入れて勝ち負けを考えてもダメだし、ビジョンだけでというのも無理。分かりやすくしようとすると、きっとどちらかに偏るんだと思います。

吉里:それに、やりたいことをやっていないとダメなタイプの集まりなので、お金=数字以前に、やりたいこと=ビジョンを持ってやっていないと生きていられない。でも、その一方で、ちゃんと稼ぐことも必要です。ただ、両立できる場所はまだまだ少なくて、だから必然的に東京R不動産にいるという感じですね。

:結果的に、おれはクリエイターだ!っていう100%クリエイター意識の強いタイプというよりは、社会性も欲するタイプが集まっているんですね。だから、好きなことをやりたいし表現意欲も強いんだけど、それが一定の社会性を持っていることにも意義を感じるんです。食えないことでも自分がやりたいことをやっていれば社会に受け入れられなくてもいい、というのとは違う。

吉里:社会性に憧れるアーティストというか。

篠田:すごく似ているなと思います。ほぼ日の仕事は「クリエイティビティーの3つの輪」と呼んで図説しているんですが、アーティスト的な「動機」は1つ目の輪で、これを発信したいとか、これが素敵だと思うということ。次に、それを実際に読み物であれば取材をして書くし、商品であればそのものに作っていくという「実行」のプロセスがある。そして、さらにそれをお客さんに楽しんでいただく「集合」という3つ目のプロセスがある。

 その3つはすべて、社会に向かって開いていることをよしとする。どのプロセスも社会に対して閉じてしまっていてはダメだと表現していますが、お二人が言われる社会性はこれに近い気がします。カジュアルに言えば、「ウケたい!」というのが動機になっているのだと。

奥野:拍手をもらいたいという。だから、「2番を歌うな」ではないけれど、どんなに評判が良かったものでも、それを単純に踏襲できないです。創意工夫は必須です。でも、それがまたモチベーションに関わっている気がします。

吉里:物件でもありますね。反応にはこだわりがあるし、モチベーションになっていると思います。もちろんどれくらい読まれているかとか、成約するかどうかといった数字も付いてくるんですが。

:メンバーはあまり口にはしませんが、東京R不動産のメンバーは、プロのライターでもなんでもないけれど、自分で書いたものが1日に数万人に見られるという状況は、結構刺激的なんだと思うんです。ウケたときのワクワク感はあると思います。

吉里:だからこそ、モチベーションの構造を維持するために、魅力的で正しい事業のコンセプト、つまり「世の中を豊かにすると思えるテーマと仕事をつくり、それによって提供者である僕らと受け手であるお客さんがいい関係を築いていくこと」というのを大事にしていますね。

篠田:ほぼ日は現在、1日の訪問者数が13万ユニークユーザー、150万PVあります。商品の中では、「ほぼ日手帳」は今や一般的なカジュアル手帳の倍ぐらいの値段で、日本で一番売れている手帳になっています。でも、それさえも根っこには個人としての「動機」があって、それがただの思いつきではないんです。お客さんと一緒に面白がりたい。喜びたい。だからこそ「動機」は大事です。
(最終回へと続く)