会社と個人の良いとこ取り

 どうせ会社を辞めるなら、個人でやる方が自由もあるし収入も高くなる可能性もある。でも、個人でできることは社会的影響力も薄くなってしまうことが多い。ある程度のチームやネットワークを組織化しないとなし得ないことは意外と多いのだ。かといって、いきなり何人もの社員を雇って会社組織をつくってしまうのもリスクが高い。

 僕らは単に大きなビジネスがしたいわけではない。何か今まで世の中でやられていない新しいチャレンジをしたい、変化を起こしたい、ということ自体が目的なので、クリエイティブな発想や感性を持った人たちでチームをつくる必要があった。

 そういう人たちは、基本的に自由や独立を求める。そんな僕らに適切な組織が、東京R不動産のような伸縮可能なアライアンス型の組織だった。それぞれは個人商店でありながら、持続するチームのメンバーになる。場合によっては社員になる選択肢もあるし、他の仕事をする選択肢もある。

 新しいことをやるときは一定期間集まるプロジェクトチームができあがり、それが実現して、必要がなければ解散するし、それが事業化すれば大きくするし、距離を置きながら関わっていく選択もある。それでも、組織全体はバラバラではなく、ちゃんと一つのまとまりになっている。

 マネジメントを担当する馬場、林、吉里の三人は、それぞれに大きな組織に属していたり、フリーランスになったこともある。大きな組織の良さを若いときに見ているのと同時に、弊害や不自由さも経験した。独立してフリーの時期もあったので、その自由さも楽しさも味わったが、それゆえの脆弱さや展開力の小ささも経験した。

 どちらにもいいところがあり、どちらにも悪いところがある。東京R不動産のチームは、その両方を組み合わせた組織をつくることにした。「個人」と「組織」、僕らはどちらかを肯定するわけでも否定するわけでもなく、適度なバランスを追求している。(第3回に続く)


著者紹介

新しい働き方「フリーエージェント・スタイル」。<br />会社と個人の「良いとこ取り」はどこまで可能か?
■馬場正尊(ばば・まさたか)写真左
Open A代表/東北芸術工科大学准教授/「東京R不動産」ディレクター
1968年佐賀県生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂に4年間勤務後、早稲田大学博士課程に復学、この時期に雑誌『A』の編集長を経験。2003年に設計事務所Open Aを設立、ほぼ同時に「東京R不動産」を吉里、林らと始める。著書に、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、『都市をリノベーション』(NTT出版)など。
■林 厚見(はやし・あつみ)写真真ん中
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター
1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営戦略コンサルティングに従事した後、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。不動産ディベロッパーを経て、2004年に吉里裕也と株式会社スピークを設立、現在共同代表。
■吉里裕也(よしざと・ひろや)写真右
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター
1972年京都生まれ。東京都立大学工学研究科建築学専攻修了。バックパッカーとして世界を旅した後、株式会社スペースデザイン入社。リクルート創業者の江副浩正氏の元でディベロップメント事業に従事しビジネスを学ぶ。2003年に独立し「東京R不動産」を馬場とともに立ち上げ、2004年に株式会社スピークを林と共同設立。