なぜ、優秀なビジネスマンが、
社内で孤立するのか?

 あるメーカーの経営企画室長を務める千葉さん(仮名、56歳)に、こんな話を聞いたことがあります。部下のAさん(42歳、係長)についての愚痴でした。

 Aさんは、頭の切れる人物だそうです。勉強熱心で経営戦略に関する広く深い知識をもち、ビジネススクールなどで築いた社外人脈も豊富。ときには、外部から勉強会に招かれることもあるそうです。

 ところが、手を焼いているといいます。事あるごとに、社内でトラブルを生んでしまうからです。いまでは、すっかり社内で孤立しているそうです。

「各部門にはそれぞれ思惑もあるし、他部署との力関係もありますよね? いわゆる、派閥の論理があるわけです。だから、少し組織をいじろうとするだけでも、いろいろな反発が出てくる。そのへんの事情もくみ取りながら、うまく部門間のすり合わせをするのも僕たちの大事な仕事なんです。ところが、彼はなまじ知識があるでしょ? なんでも理論どおり、プランどおりに事を進めようとしすぎる。困ったもんですよ」

 他部署との会議でも、反発を受けるとよくこんなことを口にするそうです。

「それは、あなたの部署の都合ですよね? 部分最適をいくら積み上げても、全体最適は生まれません。経営の教科書に書いてあるとおりです」

「まだ、そんなことを言ってるんですか? B社の改革はご存知ないんですか? このままじゃ、差をつけられるだけですよ」

 当然、反発は強まるばかり。
「なんだよ、あいつは……」「そんなにB社がいいんなら、さっさとそっちに転職しろよ」となるわけです。「少しは部署ごとの気持ちも考えて発言しろよ」と注意すると、「そういう“派閥的”な発想をするから、会社はダメになるんですよ」と反論されたそうです。

「いつも尻拭いするのは室長の僕。手間がかかってしょうがない。他部署との飲み会に誘っても、一回も来ないしね。社外で評価されてても、あれじゃ使い物にならないですよ。だから、もう彼には他部署との折衝(せっしょう)は任せてません。もっぱら資料づくりに使っているだけ。後輩が課長に昇進してるのに、わかんないのかな? 正直、異動させたいけど、引き受ける部署なんかないしね……」

 まさしく、Aさんは「孤高の存在」タイプ。
 おそらく、彼は「脱派閥」を“正義”と考えているはずです。しかし、このように派閥に背を向けて、派閥を否定するような仕事の仕方をしている限り、彼の学んできた戦略知識が生かされる日は来ないでしょう。