「左遷」を「左遷」にするのは自分

 また、社内政治においては、理不尽な人事はつきものです。
 たとえば、左遷。この精神的ダメージは非常に大きなものがあります。自分を左遷した人物や勢力を恨み、自暴自棄になるような人物をたくさん見てきました。仕事への意欲を失い、酒に溺れるなどして、自傷的な人生を送る姿は傷ましいものです。

 このようなときこそ、自分を大切にしなければなりません。まず、自分が陥った状況を冷静に受け止める。人のせいにして恨んでも状況は変わりません。それよりも、「質の高い休養」をしっかりとって、心身の健康を保つ。そして、自分の政治力を振り返ることによって、社内政治の腕を磨くチャンスに変えたほうがいい。それを目の前の仕事に活かしていけば、その職場での評価を高めることができるはずです。そして、いずれ再びあなたにチャンスが訪れるに違いありません。

 印象的な人物がいます。
 大手企業の役員を務める小西さん(仮名、63歳)です。いまでこそ役員ですが、かつては派閥抗争に巻き込まれ、左遷された苦い過去をもつ人物です。

 それは、実に理不尽な経験でした。当時、営業部に配属されていた小西さんは、順調に実績を積んでいたのですが、営業部長のポストを巡って2つのグループの派閥争いが勃発。小西さんの直属の上司がポスト争いの一方の主役だったため、否応なくその抗争に巻き込まれることになりました。

 その頃、営業部のエースだった小西さんは、社運のかかった重要案件の営業を担当していました。とある大企業からの受注を競合他社と激しく競い合っていたのです。これが災いしました。というのは、あろうことか、対立する派閥が、競合他社に小西さんの提案内容をリークしていたからです。

 その結果、小西さんは競合他社に敗北。社運のかかった案件だっただけに、社内で厳しい責任追及がされました。そして、上司ともども小西さんは地方に左遷されてしまったのです。もちろん、リークした派閥が営業部長のポストを奪取。我が世の春を謳歌することになりました。

「当時は、リークの事実はまったく知りませんでしたからね。いまとなれば、それがよかったのかもしれません。悔しかったけれど、競合に負けたのは僕の責任だから、誰も恨みませんでした。そして、とにかく今いる場所でがんばろうと思ったんです。気持ちを切り替えたら、地方での仕事も面白かったですよ」と小西さん。

 そして、数年後──。
 リークの事実が明るみに出ます。競合他社での待遇に不満をもった当事者のひとりが、退職を決意するとともにリーク情報を公にしたのです。これで、社内は蜂の巣をつつく騒ぎとなりました。会社の利益を売って、自分の派閥の利益をはかったわけです。これは、許されざる背任行為です。リークにかかわった当事者は、即刻解雇。代わりに、地方で実績を上げていた小西さんが、営業部長へと大抜擢されたのです。

「驚きましたね。だけど、いい勉強になりましたよ。社内政治で勝つために、人の道に外れたことをやっちゃいけないということです。それに、どんなにツライ立場に陥っても、まっとうにやっていればチャンスはやってくるんだと思いますね。もしかしたらリークの事実は表ざたにならなかったかもしれない。そうしたら、いまの僕はないかもしれません。だけど、それでも地方で頑張って、それなりに充実した仕事ができたんじゃないかな。それも、悪くないと思いますよ。だから、僕は、常に前向きに生きることこそが大事なんだと、しみじみ思うんです。左遷を左遷にするのは自分です。左遷されたからって、誰かを恨んだってつまらないですよ」

 小西さんのような、劇的な会社人生はそうそうないかもしれません。しかし、この小西さんの言葉は、私たちに多くの示唆を与えてくれると思います。