「中東」と「不況」が
アメリカを孤立主義に傾けた

 イラク戦争という破滅的な冒険を強行したために、アメリカの財政は破綻し、経済難に陥った。

「過去一〇年以上にわたり、わが国は一兆ドル以上を戦争に費やし、赤字を爆発的に増やし、国内の国家建設を進める能力を削がれてきた」と、オバマは二〇一三年五月に語っている。しかし二〇〇九年二月一八日、オバマは景気対策法案に署名することで、国防総省が過去一〇年間にイラクで費やした金額(七七〇〇億ドル)を上回る金額(七八七〇億ドル)を一日で支出した。

 またアメリカの「赤字が爆発的に増えた」のには多くの理由がある。二〇〇一年以降、毎年三三兆ドルを超える歳出もその一部だ。それに比べればイラクとアフガニスタンで費やした約一兆五〇〇〇億ドルなど微々たるものだ。

 アメリカが世界に無関心なのは、イラクとアフガニスタンで苦い経験をした結果、世界の警察官の役割は割に合わない場合があると気づいたせいでもある。第二次世界大戦後の日本やドイツなら、あるいは冷戦後のポーランドなら、「国家建設」にアメリカの富とエネルギーを費やす価値はあったかもしれない。だが、バグダッドやカブールで国家建設を進めても、まともな成果が期待できるはずはなかった。

 そもそもイラクやアフガニスタンが、イスラム世界全体の手本となる民主主義国になる可能性などあったのか。これは当然の疑問だ。アメリカ人がいま、外国に介入することを嫌がっているのは、アメリカの中核的利益と周縁的利益の間にはっきりと一線を引き、周縁的利益のためにエネルギーを浪費したくないと思っているからだ。

 アメリカ経済の低成長が六年目に入ったことを考えると、アメリカ人がシリア内戦やフィリピン近海の領有権争いよりも、自分の給料や次の仕事を心配するのは無理もない。国際環境がアメリカにとってさほど大きな脅威ではないのだから、アメリカ人が世界に無関心なのも当然だと指摘する声もある。