フィリピン 2015年5月14日

ある退職者の災難
フィリピンでの土地名義借りのリスク

フィリピン在住19年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者の ためのなんでも相談所」を運営しながら、仕事のパートナー一家と暮らす志賀さん。今回は、名義借りをしてフィリピンで購入した自宅契約に関するトラブル。自分の権利を守るために用意すべき書類とは?

参考記事:フィリピンで新古コンドミニアムを購入する際の注意点

 ある退職者の方が、自宅のリース契約に関して相談に来た。

 非常に信頼し、娘とまで称して長年面倒を見てきたフィリピン人女性の名義で土地を買い家を建てたが、最近、ほとんど顔も見せず、疎遠になっている。このままでは、自分が死んだら(日本人の)妻がその家から放り出されてしまうのではないかと心配だ、と。ちなみに契約者は退職者だけで、リース契約書に奥さんの名前はまったく現れていない。

 「それでは、あなたの目の黒いうちに契約書を作り直して、将来、何が起きても奥さんが安心していられるようにしましょう」ということで、新しいリース契約のドラフトを作成した。

 それを件のフィリピン人女性に見せたときから、戦いが始まった。

 彼女は退職者と疎遠になってから結婚しており、旦那は、退職者が死ねばあの豪邸が手に入ると目論んでいたに違いない。それが、退職者が死んだら「リース契約は妻および子どもなどの相続人に引き継がれる」という契約書を見せられ、目論見が外れてびっくりしたことだろう。

 その後、退職者は、信頼していたはずの女性から脅迫まがいの言葉を浴びせられるやら、不安の日々が続いた。おまけに、「住宅の一部が彼女の母親の土地にかかっているから建物の一部を取り壊せ」と言ってくるだの、さらには弟を使って国外退去の訴えを入管に起こすなど(この訴えは幸い却下された)、嫌がらせは止まらなかった。

 これら一連の動きが旦那の差し金であろうということは一目瞭然だが、退職者としてはあれほどまでに可愛がってきたのにと、裏切られたという思いでいっぱいだった。

不動産トラブルで残りの人生を費やさないために

 売られた喧嘩は買うしかない。そのため、バランガイ(町村など最小単位の自治体)に脅迫と詐欺の訴えを起こしたが、話し合いの場に相手はまったく顔を見せない。

 こうなったら裁判に訴えるしかないので、脅迫と詐欺で刑事告訴を行ない、送検されるのを待っている。しかし起訴できたらできたで、裁判という長い戦いが待っており、行く先は容易ではない。

 信頼関係がある間は、仮に契約書などなくとも、名義を借りて土地と家を購入し、そこに住むことにまったく問題はない。人生を全うしたら、お礼としてその不動産をくれてやるということも考えることだろう。

 しかしそれも長期にわたると、今回の事例のように、第三者が介入して人間関係が壊れてしまうことは容易に起こりうる。とくに男女関係は、ほとんど例外なく破局が訪れると考えたほうがいい。

 たとえ人間関係が壊れなかったとしても、名義人が不慮の死を遂げて、見知らぬ人間に相続されてしまうかもしれない。そうなると何の恩義もない相続人は、欲の皮を突っ張らせて退職者の追い出しにかかるだろう。

 これが正式に結婚している配偶者であれば、その所有権や離婚後の財産の処理、あるいは相続などが法律で定められており、争いの余地は少ない。しかし他人である場合、ややこしいことになる。とくに女性名義となった場合、相手も公然と別離の代償を求めるであろう。名義借りといっても、法律上、相手の所有物になっているのだから、丸ごと持っていかれるのは火を見るより明らかだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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