『孫子』に「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」という有名な一節がある。「彼」は敵とも考えられるし、変化と考えてもいいようだ。まさしく、市場にピッタリの文句であろう。つまり、「彼」とは価格の変動であり、他の市場参加者、そう、敵なのである。この両方の意味で、「彼」を知ることは大事である。

他人の予測をどう読むか

 短期的な市場価格の変化は、市場参加者の心理が決定することも多い。たとえば、ポジティブ・サプライズ(発表された指標などがマーケットの予測のコンセンサスよりもよかった場合、価格が上昇する。そうした反応はポジティブ・サプライズという)やネガティブ・サプライズ(ポジティブ・サプライズとは逆で、発表された指標などがコンセンサスよりも悪かった場合、価格が下落する)など、値動きそのものとともに、その癖やパターンを知っておくことは、相場予測や運用アイデアに欠かせない。

 ポジティブ・サプライズが起こった場合を考えてみよう。よいニュースが出ると思っていたところに、よいには違いないが予想より悪いニュースだったとして売られた場合は、瞬間的には売られ過ぎの可能性が高いだろう。逆張り投資(コントラリアン戦略)が機能するということだ。

 実際、行動経済学の研究成果から、逆張り投資ばかりか順張り投資(モメンタム戦略)も有効であることがわかった(モメンタム戦略は日本では無効との見方もあるが、日本では長らく下降相場が続いたことが一因かもしれない)。

 また、行動経済学が注目される以前にも、ケインズの「美人投票のアナロジー」などがあったが、他人の相場予測やアナリストのコメントをどう読むかということなどにも行動経済学は使える。他の市場参加者の心理や動向を知ったり読んだりすることができれば、マーケットで勝てるようになる。短期的な市場予測をする際にも、私は「他人の読み」を勘案してベースに組み入れている。

 市場予測をする際にも、ファンダメンタルな材料のどれを取り上げるかは市場参加者が決めるのである。ファンダメンタルの材料が市場の動きを決めるのではなく、市場参加者たちが材料を探し出すということもあるということだ。

 かつて情報は、プロとアマチュアでは収集できる範囲などに大きな差があったが、現在はITが発達し、ほとんど大差はなくなった。ウェブを駆使すれば、価格情報も市場参加者の動向も嫌というほど(情報過多といえるほど)手にすることができる。