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【第54回】 2009年5月12日
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城島 充 [スポーツライター]

選手の生命を守れるか?
美学と危うさの狭間で苦悩するボクシング界
――辻、小松の死亡事故、辰吉の現役続行がはらむ問題

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 多くのメディアは「亀田大毅と対戦予定だったボクサーが死亡」という見出しを使ったが、数々の強豪と拳をまじえ、世界タイトルにも挑戦したことのある小松選手は、決して「亀田ありき」で語られるボクサーではない。

 だが、この関西きっての人気ボクサーもまた、衰えを隠せなかった。

 現世界王者の内藤大助選手に痛烈なKO負けを喫したとき、当時所属していたジムは引退を勧めたが、小松選手はこれを拒否。ジムを移籍して再起ロードを走り出したが、ここ数戦はパンチへの反応の遅さ、打たれもろさが顕著になり、前戦ではタイの元世界王者に1ラウンドKO負け。引退を勧める声も少なくなかったが、ショッキングな敗戦の翌日、陣営は亀田大毅選手にオファーを出した。

 なぜ、小松選手は戦い続けようとしたのか。

 そのことを否定的にとらえるのは結果論でしかないのはわかっている。もちろん、小松選手は事故死であり、リングの上で命を落としたわけではない。

 だが、彼の死もまた、衰えを自覚したボクサー心理の複雑な綾と、周囲の認識と無縁ではない気がするのだ。

 小松選手と親しい現役ボクサーの1人は「1%でも勝つ可能性があれば、ボクサーはリングにあがろうとするんです」と言った。それがボクシングというスポーツだ、と。

 ならば、引退への道は周囲が説得し、導いていくしかない。もう散漫なままでは許されない。ボクサーに関わるすべての人間が、危機感をもっとリアルに持つべきだ。

 前戦の衝撃的な1ラウンドKO負けのあと、控え室で引退について聞かれた小松選手はこう答えた。

 「どういう形になっても、俺は自分自身に負けたくないんです」

 それが、どういう真意だったのか。本人の口から確認できない現実が悔しい。

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城島 充 [スポーツライター]

1966年生まれ。産経新聞の社会部記者を経てフリーに。戦前に来日したフィリピン人ボクサーの悲哀を描いた「拳の漂流」(講談社)でミズノスポーツライター最優秀賞、咲くやこの花賞を受賞、近著に卓球界の巨星・荻村伊智朗の生涯を卓球場の女性場主の視点から描いた「ピンポンさん」(講談社)。「Number」誌などに多数のノンフィクションを発表している。


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