鳩山由紀夫首相が初めての所信表明演説を行なった。

 時間をかけて磨き上げたのだろう。異例の長時間だったが飽きさせず、内容も解りやすかった。まずは順調な離陸と評価できる。

 全体のトーンは、内容も口調も感傷的で、その点では首相カラーに満ちていた。これも度が過ぎると偽善の印象を与えかねないので要注意だ。

 ちなみに、麻生太郎前首相は逆に荒っぽい感じの演説だったが、感傷で訴えるところが微塵もなかった。どちらかと言えば、“偽善”より“偽悪”を思わせるが、これはこれでさすがと言うべきだろう。

 私は宮沢喜一、細川護熙両首相の所信表明に深く関与したが、2人とも感傷的な表現を何よりも嫌った。その人の好みの問題なのだろう。

 鳩山首相の演説には、“思い”とか“愛”とかあるいは“命”、“きずな”など情緒的な言葉が頻繁に出てくる。宮沢さんにはいかにも似合わない言葉だ。

“無血の平成維新”は実現できるか

 内容に新味が乏しいのは無理もない。首相就任40日。既に国連総会などの外交舞台や、さまざまな挨拶や連日のコメントで多くを語っている。言わば今までの発言の集大成だ。もしも、首班指名の特別国会でこの演説をしたらかなり新鮮で衝撃的な印象を与えただろう。

 所信表明演説だから、ある程度抽象的、総花的な演説になるのは止むを得ないが、やはり斬新で具体的な部分もほしかった。

 特に“政治主導”については、このところ本当にできるのかという不安感が強まってきている。

 総選挙以来の売り物である「国家戦略局」をいつ設置するのか。その役割や権限をどうするのか。それに明確な意思表示を期待していたが、残念ながらそこまで踏み込まなかった。

 また、斎藤次郎元大蔵事務次官を日本郵政の社長に起用したことについて、かなり大きな不安感、不信感が生れている。政治主導のために法的、制度的にどんな体制をつくるのか。それも明らかにされなかった。これで果たして「歴史を変える」ことができるのか。“無血の平成維新”を実現できるのか。心配は払拭されない。

 自らの政治資金問題については当然ながら真剣に陳謝したのは好感が持てる。首相自身が事実をありのままに語れば、ほとんどの人たちは耳を傾けるはずだ。

 外交舞台が一段落して、いよいよ自民党など野党が手ぐすねひいて待ち構える国会論議が始まる。

 新政権に対する支持率は高いが、支持の中身を検討すれば決して楽観はできない。要するに、支持は広いが強くないのである。だからちょっとした言動のミスでたちまち失速するような状態にある。支持の弱さを強化していくのは、今後の首相の言動だ。広い支持が、そのまま強い支持になっていけば“平成維新”も夢ではない。


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