冷戦下の緊張感を失った欧米と
危険性を増す「境界線」

 NATOの初代事務総長を務めたイギリスのヘイスティングス・イスメイ卿が、NATOの目的は「アメリカを取り込み、ロシアを締め出し、ドイツを押さえ込んでおくことだ」と言ったのはよく知られているが、もはやその目的は書き直す必要がある。「アメリカを取り込み、ロシアを締め出し、ドイツを復活させることだ」と。

 ヨーロッパは経済が苦しく、これ以上は国防に予算は割けないという主張があるが、これは眉唾ものだ。イギリスはおそらく第二次世界大戦後最大の不況に見舞われた1979年に、GDPの4.9%相当を国防費に当てていた。同年、フランスもGDP比4%を国防に支出した。当時でさえ、この予算は脅威の大きさに見合った規模ではなかったが、少なくともその取り組みは真剣だった。もう一度同じように真剣に取り組む必要がある。

 アメリカがやるべきなのは、規範を定めてそれを世界で行使することだ。つまり基本的にどのような振る舞いが期待され、どのような行動には是正が求められるかを示すことだ。これは実効性が疑わしい国際「法」を宣言したり認めたりすることとは大きく異なる。またこれはアメリカがずっとやってきたことでもある。

 アメリカは1983年にグレナダに侵攻して共産主義革命を転覆し、1989年にはパナマに侵攻して、アメリカへの麻薬輸出に関与していた体制を転覆した。1991年の湾岸戦争ではクウェートの主権を回復し、1990年代には旧ユーゴスラビア紛争に介入してサラエボ包囲に終止符を打ち、クロアチアの対セルビア戦を支援し、コソボにおける民族浄化を終わらせた。さらに台湾海峡に空母を派遣して中国の攻撃を阻止し、9.11テロ後にはアフガニスタンのタリバン政権を転覆した。2011年にはリビアの独裁者ムアマル・カダフィの打倒を支援した。ソマリア内戦への介入は、破綻国家の再建ではなく飢饉の緩和に目的を絞り込んでいれば成功していただろう(そしていまごろ忘れられていたに違いない)。

 ヘンリー・ナウ(ジョージ・ワシントン大学教授)は論文『アメリカの国益』で、アメリカの「地球イデオロギー」的な利益として、「自由が最も重要な意味を持つ場所、つまり既存の自由社会(と自由でない社会)の境界線に注目するべきだ」と論じている。

 それはアジアの自由な国々と中国や北朝鮮との境界線であり、ヨーロッパの自由な国々とロシアとの境界線、そしてイスラエルとアラブ諸国の境界線だ。「これらの境界にある国々が脅かされたら、アメリカも脅かされていることになる」と、ナウは主張する。「なぜなら独裁国家の妖怪が民主主義世界の中核に近づいてくると、世界は住みにくい場所になるからだ」

 ナウが挙げた場所に加えて、コロンビアとベネズエラの境界線、インドとパキスタンの境界線、そしてイランと近隣諸国すべてとの境界線が、アメリカが注視するべき場所として挙げられるのではないか。