“ホームレスの特技”を生かした新たな就労スタイル「ホームドア」事務所、エントランスにて。左から、小林大悟さん(営業担当)、松本浩美さん(事務局長)、石井孝洋さん(相談スタッフ)、澤本昇さん(スタッフ)、川口加奈さん(代表)。澤本さんは生活保護世帯に育ち、失業をきっかけにホームレス状態を経た後、「HUBchari」で就労リハビリを経験した。現在は、かつての自分のような状況にある人々を支援している
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 生活保護を利用する人々は、「自己責任で生活保護になった上、税金で怠惰な生活をしている」という感情をぶつけられやすい。

 今回は、大阪市でホームレス状態にある人々の直接支援と啓発活動に取り組んでいる「ホームドア」の活動を紹介する。生活保護利用者と同様に「怠け者」「自己責任」「支援は無意味」「迷惑」「排除されて当然」と考えられがちな人々は、何を最も必要としているのだろうか?

勤勉に働かなければ生きていけない
ホームレスの就労“実態”

“ホームレスの特技”を生かした新たな就労スタイル川口加奈(かわぐち・かな)氏 1991年生まれ。特定非営利活動法人・Homedoor代表。大阪市内の中学に通っていた14歳の時、釜ヶ崎地区の炊き出しに参加したことをきっかけとして、ホームレス状態にある人々への食料提供・同世代の高校生に対する講演などの啓発に取り組み始める。高校2年生だった2008年、第11回米国ボランティア親善大使として世界各国の高校生とともに表彰される。2010年、大阪市立大学で貧困問題を学ぶかたわら、Homedoor を設立した。
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「実はこの1年ほど、ホームドアで力を入れている事業の1つは、おっちゃんたちの仕事づくりです」

 と、川口加奈さん(特定非営利活動法人・Homedoor(以下、ホームドア)代表)は語る。川口さんは親しみを込めて、ホームレスたちを「おっちゃん」と呼ぶ。現在24歳の川口さんは、中学生だった14歳の時からホームレス問題に関わり始め、すでに10年のキャリアを持つ。ホームドアは、川口さんが大阪市立大学の学生だった19歳のときに設立した団体だ。2010年の設立から、今年は5年目にあたる。

(注)「ホームレス」は本来、「住まいがない」という状態を示す用語であり、「住まいがない人」ではない。正確には「ホームレス状態の人々」「路上生活者」「野宿者」といった用語を用いるべきであるが、本記事内では「ホームレス状態にある人」=「ホームレス」とする。

 働かないホームレス向けに特別な仕事を用意する、というわけではない。ホームレスたちは一般的に、極めて勤勉に働いている。そうしなければ死んでしまうからだ。

 ある程度の若さがあり、心身の健康維持・身体の最小限の清潔維持が可能なホームレスは、好況期ならば日雇い労働に就くこともできる。しかし年齢を重ねるに従い、日雇い労働も困難になる。若く体力があっても、日雇い労働の機会も失われるほどの不況となれば、就労したくても就労はできない。このような場合には、「廃棄されている空き缶やダンボール箱などの廃品を回収して売る」が、ほとんど唯一の現金収入の機会となる。一方で、近年増加しているのは、指定を受けた収集業者以外による廃品回収を条例で禁止する自治体だ。背景には、「ホームレスが地域にいるのはイヤだ」という住民感情がある。

 いずれにしても、ホームドアの「仕事」づくりは、

「もともと勤勉に働いているホームレスたちに、さらに安全で収入を得やすい仕事の選択肢を用意している」

 というのが実情に近い。

 では、ホームドアは、現在、どのような「仕事」を作っているのだろうか?