創続総合研究所

争いの引き金は、お金ではなく感情
~親、長男、お嫁に行った娘……立場によって「期待」は違う

相続が人間関係を壊すこともある

八木美代子
ビスカス代表取締役

八木 それで、長男と長女の争いになったわけですね。

小林 結局、遺産分割協議はまとまらず、両者が弁護士を立てたうえで、裁判所による調停になりましたが、私の当初の予想からすれば、比較的早く和解に至りました。早期解決したい長男側が大幅に譲歩して、長女に遺留分(*1)を超える遺産分割を認めたからでした。結果的に、お父さんの遺志は貫かれることなく、楽とは言えない家業を継ぐ長男にとっては、厳しい相続になってしまいました。
 付け加えれば、「和解」はしたけれど、その後、この二人は「行き来なし」の状態になりました。これも相続の悲しいところで、経済的にはいつか決着がつくものの、人間関係は元に戻らないケースが、「またか」というくらい多いんですよ。

八木 話だけ聞くと、長女について「嫁に行って何もしないのに、親の遺産をあてにして」「大変な思いをしてる長男夫婦に口出しばかりする」という悪い印象を持ってしまいますよね。彼女は心中、何を思っていたのでしょうか?

小林 これも推測ですけどこんな例があります。
「“家督相続”なんて、いつの時代の話なの? だいいち、お父さんの財産は、賃貸物件が多くて、農地なんてわずかじゃない」
「弟の立場や気持ちは分かるけど、私にも最低、遺留分はもらう権利があるはずでしょう。そこは譲れないわ」
「実家にいろいろ口を出したのは、家族を思えばこそ。あのお嫁さん、表と裏が違い過ぎ。親も弟も、すっかり騙されちゃって」
「子どもの頃から、長女だからって我慢させられることが多かった。弟や妹の面倒だって、どれだけみたと思うのよ。相続で弟だけを優遇して、私にこれだけしかくれないなんて、絶対に許せない」
 どうです、彼女の心中も分かる気がしませんか。

八木 長女がそのように考えること自体を「間違っている」とは言えませんよね。

小林 ええ。この相続のケースだと、先祖代々の家のことを考えるお父さん、その遺志を継ごうという長男や、それに理解を示す母親と次女、一方で「ちょっと理不尽じゃない」と反旗を翻した長女、誰一人、「自分はおかしな主張をしている」とは思ってないわけです。事実、誰も間違ったことは言ってません。
 つまり、置かれた立場によって、みんながそれぞれ「正しい」ことを主張する。そして、こじれる。でも、最終的には、そこに折り合いをつけなければいけないのが、相続なんですよ。

相続の現場で露わになる感情

八木 それにしても、さっきの長女の、「子どもの頃から……」というのは、まさに「秘めていた感情の発露」という感じですね。

小林 実は、この方も経済的に困っていたのでは、まったくないんです。「反抗」のエネルギーになったのは、恐らくそうした「怒りの感情」だったのではないでしょうか。そう感じるのは、実際にそうした例をいくつも見てきたからにほかなりません。
「秘めていた」とおっしゃいましたけど、まさにそこが問題なんですね。相続で揉めるまで、長女がそんな思いを持っていたなんて、誰も知らなかった。もっと言えば、自分に納得のいく遺産相続だったら、長女自身もそんな感情を思い出すことはなかったかもしれないのです。
 親子も夫婦も兄弟も、実は相手が何を思っているのか、正確に分かっているわけではない。そういうことを考えてみると、世の中に「絶対揉めない相続」なんてないことが、理解していただけるのではないでしょうか。

*遺留分 民法で定められている、相続人が最低限相続できる財産。今回のケースでは、相続人が配偶者と子ども3人なので、配偶者は2分の1÷2=4分の1、子どもは6分の1÷2=12分の1が長女の取り分となる。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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